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作り方今月俳句│歳時記 @ A B C D E F G H I J K│過去log@ A B C D

三省堂 「新歳時記」 虚子編から
季語の資料として引用しています。

七月の季語

半夏生(はんげしやう)

七月二日頃、夏至から十一日目の日である。或はこ
の日を第一日とする五日間のことも半夏生と呼ばれ
つやうである。漸く梅雨からあけ田植も終る。この
日は天から毒気が降るといつて、菜類を断つ風習が
あつた。又、雨が降れば大雨となるといひ伝へても
ゐる。この草は「どくだみ」と同属の草で、花をつ
ける頃になると、梢葉の二・三は変じて表面のみ白
色となる。それで「片白草(かたしろぐさ)」とも
「三白草(さんぱくさう)」とも呼ばれるのである。
この白葉に対して花穂を伸ばし、細い花を咲き綴る。
これも白い。水辺に多い二尺許の野生草である。
形代草(かたしろぐさ)
「朝の虹消えて一雨半夏雨」黙禅
「半夏生小麦の餅を貰ひける」香雲

百合(ゆり)
百合は山野に多く自生し又庭園にも植ゑられる。茎
は一本、葉は多くは笹に似て下から上まで満遍なく
つく。花は普通帯黄紅色或は白色で、六つの単弁或
は合弁の美しい花を梢頭に一筒乃至数個つける。培
養に依つては一本に百余花をつけたのを見ることが
ある。山野に散見山百合は清楚に、野に咲いた姫百
合は優しく、山畑の鬼百合は野趣に富み、白百合は
純潔に、其他鹿子百合・車百合・早百合・黒百合・
鉄砲百合など皆それぞれ、その趣と姿とを少しづつ
異にしてゐる。百合の花。
「かりそめに早百合生けたり谷の房」蕪村
「俯向きし百合に雨降る垣根かな」闌更
「古家や草の中より百合の花」成美
「山百合に雹を降らすは天狗かな」水巴
「み佛に百合開きたる大きさよ」死洒
「全山に一水あらず百合強し」青鏡
「霊地とてすぐ湧く雲や百合の花」零餘子
「上にある青き蕾や百合の花」正蟀
「満目の百合折ることも飽きにけり」」虚子
広辞苑から。
ゆり【百合】
(「揺り」の意か)
@ユリ科ユリ属植物の総称。北半球の温帯に約六○
種。多年草。葉は線状または披針形で、平行脈。花
は両性で大きく、花被片は内外各三枚。雄蕊(オシベ)
に丁字形の葯(ヤク)がある。花が美しく芳香があり、
園芸品種も多い。鱗茎は球形で白・黄・紫色など。
時に食用。ヤマユリ・スカシユリ・テッポウユリ・
カノコユリの各亜属を含む。キリスト教では純潔の
象徴。英名、リリー(lily)。季・夏。
皇極紀「―の花を献(タテマツ)れり」
A襲(カサネ)の色目。「桃華蘂葉」によれば、表は赤、
裏は朽葉(クチバ)。
そこで一句。
「草原に一つ伸び出る百合の花」よっち

月見草(つきみさう)

東京付近では多摩磧に多く、夏のたそがれ時に暫く
彳んで居ると、黄色の大輪四弁の花を見る見るあた
りに咲き開くのを見ることが出来る。夕に開き朝に
萎むところから其名がある。これはしかし植物学上
は宵待草といふので、月見草は白色のものである。
「夕汐に纜(ともづな)張りぬ月見草」播水
「かけ茶屋や葭簀の中の月見草」其昔
「書き疲れ出ては遠出や月見草」雉子郎
「濱墓へ供へし花も月見草」石陽
「よりそへばほころびそめぬ月見草」友次郎
「月見草かよわき影を落しけり」同
「月見草少しほぐれてとまりけり」みづほ
「赤や黄やしぼみし花の月見草」千止
「渡場の茶屋仕舞居り月見草」筍吉
「手探に解く纜や月見草」柳之
「風鈴に月見草ありそれでよし」晴子
「唯一人船繋ぐ人や月見草」虚子
広辞苑から。
つきみ‐そう【月見草】‥サウ
@アカバナ科の越年草。北アメリカ原産。茎の高さは
約六○センチメートル。初夏、大形四弁の白花を開き、しぼむ
と紅色となる。日暮れから開花し、翌日の日中にしぼ
む。花後倒卵形の〓果(サクカ)を結ぶ。観賞用に栽培。つ
きみぐさ。
Aオオマツヨイグサの誤称。季・夏
そこで一句。
「月見草何も言わずの帰り道」よっち

合歓の花(ねむのはな)

山野に自生する高さ二・三丈に達する喬木で枝は
繁茂し、非常に多数の小枝から成り、その葉は日
暮れに至ると合掌して眠るやうである処がその名
を得た所以である。夏日梢頭に細絲を聚めた如く、
半ば白く半ば淡紅色のほのぼのとした花をつける。
ねぶの花。
「象潟た雨に西施が合歓花」芭蕉
「真すぐに合歓の花落つ池の上」立子
「合歓大樹花ほうほうと紅きか」蛍泣
「休らへば合歓の花散る木蔭かな」虚子

梅雨明(つゆあけ)
鬱陶しい梅雨が一ヶ月くらゐも続くと、雷が鳴つて
梅雨明となる。小暑の壬の日が梅雨明或は出梅とい
ふとの説がある。
「梅雨の後牛ほす里の堤かな」延年
「陋巷やどやらかうやら梅雨の明け」素風郎
広辞苑から。
つゆ‐あけ【梅雨明け・出梅】
梅雨の季節の終ること。暦の上では夏至(ゲシ)の後の
庚(カノエ)の日とする。つゆのあけ。季・夏。「―宣
言」 ⇔つゆいり
そこで一句。
「梅雨明けや今朝の天気は気分良し」よっち

青田(あをた)
田植をした苗が伸びて、一面青々となつた田である。
はじめ田の水が見えてゐたのが段々見えなくなる。
七月も末になると、中に這入つて田の草を取つてゐ
る人もかくれるくらゐのびて来る。
「なかなかに行ば道ある青田かな」百明
「ぬれ髪を吹かれに門の青田かな」汀鴉
「提灯をあげて青田の面を見し」五太夫
「青田中蓮の古池ありにけり」南崖
「をちこちの青田の色の違ひけり」與四郎
「百姓のひまな時あり青田風」九蛤
「山裾を白雲わたる青田かな」虚子
広辞苑から。
あお‐た【青田】アヲ‥
@稲が生育して青々とした田。季・夏
Aまだ実らない稲田。
B無料で興行物を見る人。また、無料。ただ。守貞
漫稿「京坂観場に銭を与へず看之等を方言にて―と
云ふ。今は諸事に銭を与へざるを―と云へり」
そこで一句。
「夜風やみ蛙喧(やかま)し青田かな」よっち

雲の峰(くものみね)
夏の天涯に、いかめしく山の如く入道の如く聳え現
はれる雲である。夏雲多奇峰とある。入道雲。
「てり附るさらしの上や雲の峰」許六
「野社に太鼓うちけり雲の峰」北枝
「雲の峰石臼をひく隣かな」李由
「舟入の裸に笠や雲の峰」専吟
「雲の峰四沢の水の涸てより」蕪村
「涌かへる田毎の水や雲の峰」几菫
「山一つあなた丹波や雲の峰」百池
「ぐんぐんと延びゆく雲の峰のあり」虚子
広辞苑から。
くも‐の‐みね【雲の峰】
夏、峰のように高く立つ雲。入道雲。季・夏。奥の
細道「―いくつ崩れて月の山」
そこで一句。
「見上げれば高層ビルに雲の峰」よっち

夕立(ゆふだち)
物凄い夕立雲が湧いたかと思ふと俄にかき雲つてま
つ暗くなる。ひやりとした風が過ぎると大粒の雨が
ボタボタを落ちはじめる。後は車軸を流すやうな白
雨である。一時間くらゐするとからりと明るくなつ
て、間もなく忘れたやうな蝉の声が聞こえる。これ
が夕立の定型である。雷を伴ふこともある。
ゆうだち。白雨(ゆふだち)。夕立雲(ゆふだちぐ
も)。夕立風。夕立晴。
 <牛島三遶の神前にて、雨乞するものにかはりて>
「夕立や田をみめぐりの神ならば」其角
「夕立や川追ひあぐる裸馬」正秀
「夕立に干傘ぬるゝ垣穂かな」傘下
「白雨や草葉を掴む村雀」蕪村
「白雨や膳最中の大書院」太祇
「白雨や戸さしにもどる草の庵」同
「風そひて夕立晴る野中かな」白雄
「夕立に跡方もなし雲の峰」正白
「夕立や雨戸くり出す下女の数」子規
「夕立や朝顔の蔓よるべなき」虚子
広辞苑から。
ゆう‐だち【夕立】ユフ‥
(一説に、天から降ることをタツといい、雷神が斎場
に降臨することとする)
@夕方、風・波などの起り立つこと。風雅夏「―の風
にわかれて行く雲に」
A夕方、急に曇って来て激しく降る大粒の雨。夏の夕
方に多く、発達した積乱雲によって起り、雷を伴いや
すい。白雨。夕立の雨。季・夏。李花集「―はみか
さとりあへず過ぎぬれど」
そこで一句。
「白雨や皆逃げ惑うアスファルト」よっち

虹(にじ)
虹は普通、夕立の後などに現れることが多い。七色の彩
體の弧を雲間に現じて、常に太陽の反対側に見られるも
ので、朝は西、夕は東の空である。水蒸気と太陽光線の
反射によつて出来るののであるから、噴霧器でも小虹を
生ぜしめることが出来る。朝虹が立てば雨。夕虹が立て
ば晴ともいはれてゐる。
「虹の輪のうすらぎつつもまだありぬ」草坡
「虹仰ぐ面の雨のかかりけり」天大子
「虹立つ野羊のむれは遠く遠く」いはほ
「虹立ちて雨逃げて行く広野かな」虚子

扇(あふぎ)
あふいで涼を納るゝために夏期用ゐる。扇子ともいふ。
白扇は白地のもの、絵扇は絵のあるもの、古扇は使ひ
古した昨年のもの。
「渡し呼草のあなたの扇かな」蕪村
「絵あふぎや是も二見のうら表」也有
「うき人の日影をかくす扇かな」土巧
「旅人の破鐘叩く扇かな」子規
「白扇や袴着けたるお城番」黙禅
「あれこれと開き重ねし扇かな」七三郎
「白扇の上昇するや昇降機」汀女
「ありあはす白扇を掛け誕生日」躑躅
「白扇や漆の如き夏羽織」虚子
広辞苑から。
おうぎ【扇】アフギ
@あおいで風を起し涼を取る具。また、礼用や舞踊の具
とする。中国の団扇(ウチワ)に対し、平安前期わが国の創
始になる。檜扇(ヒオウギ)・蝙蝠(カワホリ)扇の二種があり、
それぞれ冬扇・夏扇ともいう。後者は幾本かの竹・木・
鉄などを骨とし、そのもとを要(カナメ)で綴り合せて、広
げて紙を張り、折畳みのできるようにしたもの。すえひ
ろ。せんす。季・夏。万九「―放たず山に住む人」。
「―をかざす」
A紋所の名。扇を図案化したもの。
そこで一句。
「駆け込みの電車に乗るや扇ふる」よっち

團扇(うちは)
方形・卵形・円形等がある。絵団扇は絵のあるもの、
絹団扇は絹張りのもの、水団扇は漆又は耐水薬を塗
つたもので水を注いで用ゐるもの、渋団扇は渋を引
いたもの、古団扇は使ひ古した前年のもの、団扇掛
は団扇を掛けて置く道具である。
「月に柄をさしたらばよき團(うちは)かな」宗鑑
「水うつてあふぐもよしや渋團」闌更
「おもふほど風なき君が團かな」百池
「水団扇ペカペカ鳴りて涼しいぞ」花蓑
「座布団の一つ一つに團扇かな」拓水
「くづをれて團扇づかひの老尼かな」虚子

日傘(ひがさ)
夏期日光を遮ぎるために用ゐる傘である。絵日傘は
絵や模様のあるもの、砂日傘は海水浴場などの休息
所用の大日傘をいふ。又パラソルは婦人用の洋傘。
ひからかさ。
「晴天と一つ色也日傘」一茶
「乳子揺りつ窓より日傘受取りし」楽天
「鹿やがて恐ろしくなる日傘かな」押雲
「出づべくとして門の日にある日傘かな」浅茅楼
「たゝみおく日傘ふくるゝ蓆かな」白楢
「日傘さす音のきこえて出て行きし」やす女
「磯の香のいよいよ強き日傘かな」迦南
「紺土佐の古き日傘や御坊乳母」憲之助
「松風に几床の日傘倒れけり」静風
「濯女に日傘さしかけ話しけり」みさを女
「降りしきる松葉に日傘かざしけり」立子
「渡舟上りてつぎつぎにさす日傘かな」すみ女
「顔かくし行過ぎたりし日傘かな」虚子
広辞苑から。
ひ‐がさ【日傘】
日光の直射を防ぐのに用いる傘。パラソル。季・夏。
信徳十百韻「―に残る暑さ忘れず」
そこで一句。
「足早に歩く姿の日傘かな」よっち

天道虫(てんたうむし)

色々と種類があるが、皆丸くて、四方八方から足を
出して這つてゐる。斑点がある。球を半分に切つた
やうに背中も円い。つやがある。草の葉や、茄子・
瓜などにも著いてゐるが、これは作物に害をするよ
りも、他の害虫を食べてゐるのださうである。
てんとむし。
「のぼりゆく草細りゆく天道虫」草田男
「羽出すと思へば飛びぬ天道虫」虚子

金龜子(こがねむし)
五・六分、普通金緑色をしてゐるが、種類が多くて、
紫金色・赤銅色・黒褐色・紫黒色其他色々の色彩を
持つたものが多い。夏の夜、うなりながら灯に飛ん
で来て、ポタリと落ちたりする。拾つて、窓外へは
ふり出すと又やつて来る。小さい蟲には、すぐ死ん
だまねをする癖があるが、この蟲もよくやるやうで
ある。固くなつて、わざわざひつくり返つてゐたり
する。幼虫の間は土中にあつて作物の根を食ひ、成
虫になると作物の葉を食ふ害虫である。金龜蟲、か
なぶん。ぶんぶん。ぶん蟲。
「金龜子翅をもちひて起き直る」何蝶
「金龜子の頭撫づれば畏り」素月
「金龜子薄翅一枚閉ぢ遅れ」躑躅
「こがね蟲静かに居りぬ大広間」春梢女
「金龜子擲つ闇の深さかな」虚子
広辞苑から。
こがね‐むし【黄金虫・金亀子】
コガネムシ科の甲虫の総称。世界に約一万七千種が
分布。ダイコクコガネ・マグソコガネなどの食糞類
と、カブトムシ・コフキコガネ・スジコガネ・ハナ
ムグリなどの食葉類に大別する。また、その一種の
コガネムシは、体長約二センチメートル、緑色で金色に輝く。
成虫は種々の植物の葉を食う害虫。幼虫は「じむし」
といい、土の中にすみ腐った植物質を食う。日本そ
の他に広く分布。
そこで一句。
「金亀子台風一過葉の裏に」よっち

兜蟲(かぶとむし)
物々しい兜のやうな角をはやしてゐる、なまじひに
押へつけても、はね返すだけの堅い甲と力を持つて
ゐる。つかんで上げようとしても、物につかまると
一寸離せない。肢でひつかゝれると怪我をする。色
は黒い。大概這つてゐるので、飛べないのかと思ふ
と、頑丈な羽根を拡げて飛び立つ。角か首のくびれ
に糸をひつかけて貰つて、子供達が弄んでゐる。樹
液を吸ふために、さいかちによく集まるので、さい
かちむしとも呼ばれてゐる。
「兄弟や相闘はす兜蟲」頓幸
「ひつぱれる糸まつすぐや甲蟲」素十
「糸足にからまり溜り甲蟲」同
「兜蟲団扇もたげて這ひにけり」白山
広辞苑から。
かぶと‐むし【兜虫・甲虫】
(角の形が兜の前立てに似るからいう) コガネムシ科
の甲虫。長さ約五センチメートル、幅約三センチメートル。背面隆
起、全面平滑、光沢があり、黒褐色。脚は強大で脛
節に歯状突起を有し、雄は頭上に先の割れた長い角
状突起をもつ。幼虫は堆肥や枯葉を食い、成虫は夏
に現れ、樹液を吸う。サイカチムシ。季・夏
そこで一句。
「山のある秘密の場所や兜蟲」よっち

富士詣(ふじまうで)
七月十日が所謂富士の山開で、これから人々が頂上
に鎮座する富士権現(浅間神社・祭神大花咲耶姫命)
に参詣することをいふ。登山路は大宮口・御殿場口・
須走口・吉田口の四道がある。富士講は富士詣の団
体。富士道者は参詣団体の人々。富士行者は参詣す
る人々を伴つて登山する先達。普通富士講の人々は
白衣をまとひ、鈴を佩び、金剛杖を携へてをる。篠
小屋(しのごや)は石室の坊舎。富士禅定は登山を
終ヘ行を修めたること。富士の御判。お頂上。影富
士。お鉢廻り。
「濛雨晴れて色濃き富士の道者かな」普羅
「富士詣一度せしといふ事の安堵かな」虚子
広辞苑から。
ふじ‐もうで【富士詣で】‥マウデ
@近世、陰暦六月一日から二一日までの間に富士山
に登り、山頂の富士権現社(祭神は浅間大神、木花
開耶姫命コノハナノサクヤビメノミコト)に参詣すること。富士参
り。
A陰暦六月一日の前後、江戸の浅草・駒込・高田な
ど各地に分祀した富士権現社に参詣し、富士塚に登
ること。季・夏
そこで一句。
「今回で二度する馬鹿の富士詣」よっち

登山(とざん)
夏期は高山の気分を味ひ或は信仰などのために峻峰
や霊山に登ることが多い。登山者の行装としては近
年は登山服に登山帽にリユツクサツクを負い登山杖
を突いた軽装のものが多い。信仰に依る登山者は白
衣に茣蓙(ござ)を着、登山笠に草履ばきで登山杖
を持つた者が多い。山登。登山宿。登山小屋。登山
杖。登山笠。登山口。
「もろともに肥えて夫婦や山登」みずほ
「空さまに夜の雪渓や登山小屋」煤六
「馬の居る温泉宿や登山口」手古奈
「登山口大吊橋を躍らせり」青畝
「牧場より曳いて来るなり登山馬」泊月

瀧(たき)
白布の如く巖壁に係るものから、山谷をゆるがし落ちる
もの迄、大小色々の瀧がある。之に向へば精冷の気、肌
にせまるを覚えるであらう。瀑布。
「那智を見て瀧みな小さき山路かな」暮情
「瀧茶屋の手摺伝ひの径かな」虚楓
「瀧を見る障子くまなくあけにけり」はつ子
「手つなぎてうかれ通る娘瀧しぶき」立子
「神にまかせばまこと美はし那智の瀧」虚子

清水(しみづ)
池底や谷間から湧き出してゐる清冽な水である。炎
熱の時も之に手をつけると忽ち涼味を覚える。山清
水。岩清水。苔清水。草清水。
「むすぶ手に楢の葉動く清水かな」宗因
「さざれ蟹足をひのぼる清水かな」芭蕉
「石工の鑿(のみ)冷したる清水かな」蕪村
「こぼしつつ杓の清水をのみにけり」滴子
「おろしたる草籠映る清水かな」木国
「石一つ震い沈み行く清水かな」虚子

涼し(すずし)
夏は暑いが、其暑さの減じた時は涼しい。朝とか晩
とか、水辺とか、風が吹くとか雨が降るとかすると
涼しさを感ずる。朝涼(あさすず)。夕涼(ゆふす
ず)。晩涼(ばんりやう)。夜涼(やりやう)。涼
風(りやうふう)。
「涼しさやほの三日月の羽黒山」芭蕉
「涼しさや我田へ落る水の音」南嶺
「涼しさや縁より足をぶらさげる」支考
「月高く涼しき城の夜明かな」淡々
「朝涼の間にかれこれとせはしなや」怒愛庵
「晩涼に池の萍(うきくさ)皆動く」虚子

浴衣(ゆかた)
入浴の前後に用ゐた単衣の略称で、主として木綿地
のものが多かつたが、今は一般に浴衣掛で外出する
風習となつたので絹織物も用ゐる。普通白地が多い。
染浴衣(そめゆかた)は白地を種々の柄に染めたも
の。貸浴衣。古浴衣。
「日曜や浴衣袖広く委蛇委蛇たり」子規
「しろじろと古き浴衣やひとり者」石鼎
「糊こはき浴衣の音や闇をあるく」素風郎
「月影のふところにさす浴衣かな」王城
「四五人の心おきなき旅浴衣」立子
「干浴衣褪せゐる乳のあたりかな」麥村
「いつの間にわれ人妻や派手浴衣」二三子
「どの竿も吹きかたまりて宿浴衣」春雨
「浮巣見に洗ひはげたる宿浴衣」野風呂
「浴衣着て元湯通ひの人等かな」たけし
「いと軽く洗ひ晒しの古浴衣」虚子
広辞苑から。
ゆ‐かた【浴衣】
@「ゆかたびら」の略。日葡「ユカタビラ、また、ユカタ」
Aおもに白地に藍色(アイイロ)で柄を染めた、浴後または夏季
に着る木綿の単衣(ヒトエ)。ゆあがり。季・夏
そこで一句。
<葛飾柴又の帝釈天通りにて>
「数人で柴又歩く浴衣かな」よっち

端居(はしゐ)
夏期室内の暑さを避け、又は庭の風景を味ひ外気に
触れるため、縁先に出て寛ぐことをいふ。
「端居してつくづく老の留守居かな」射水
「端居して旅にさそはれゐたりけり」秋櫻子
「上潮の今は塵なき端居かな」雨瀞
「端居する人の機嫌や旅戻」煤六
「流れくるものおもしろき端居かな」雨石
「へうたんの形定まる端居かな」犀川
「端居して箒木の闇あるごとし」草秋
「ふるさとも今宵きりなる端居かな」鳴弦士
「独居nおはし居の場所も極り居り」虚子
広辞苑から。
はし‐い【端居】
家屋の端近く出ていること。特に、夏の夕方、涼を求
めて縁側などにいること。季・夏
そこで一句。
「端居してビールを一杯あゝうまい」よっち

汗(あせ)
夏になるとぢつとしてゐても汗がにじむ。玉の汗・汗の
玉は液が玉をなしたること。汗みどろは総身汗となつた
こと。汗の香は汗の臭気。汗水。汗ばむ。
「横座してうけ唇の汗女房」櫻坡子
「背をつたふ汗を知りつつ話しけり」常人
「居ながらに汗の流るる日なりけり」たけし
「汗しみて結目かたし笠の紐」雨寒洞
「汗ばまずからりとおはす老師かな」虚子

納涼(すずみ)
夏は暑さを避けるために少しでも涼しい所に出て涼
む。涼みの情景はさまざまで、庭先の樹下に涼み台
が造つてあつたり、或は舟を出したりなどもする。
縁涼み。門涼み。橋涼み。夕涼み。宵涼み。夜涼み。
土手涼み。磯涼み。納涼舟(すずみぶね)。
「皿鉢もほのかに闇の宵すずみ」芭蕉
「夕すずみよくぞ男に生まれける」其角
「おもはずの人に逢けり夕涼み」如風
「涼居て闇に髪干す女かな」召波
「夕涼み尻をまくりて歩きけり」牛伴
「どん底の暮しの中の涼みかな」佐海
「橋涼み笛ふく人をとりまきぬ」虚子

打水(うちみづ)
夏期は庭園・街路・路地等に水を打つ。土地が乾燥
して塵埃の起ち易いため、これを防ぎ地焼を醒して
涼風を呼ぶためである。水撒き。水を打つ。
「打水の流れてきたる床几かな」常人
「水打つて長屋づきあひなれにけり」曉水
「水打つて寝し家もある夜道かな」高円
「出船送り入船待ちて水を打つ」水巴
「炎帝の威の蓑に水を打つ」虚子

夏の月(なつのつき)
夏の夜の月は秋の夜の月ほど澄んでゐない。暑さの
去らない空にかゝつてゐるといふ感じもあるが、風
渡る芭蕉葉から出る月は、さすがに涼しい。月涼し。
「夏の月御油より出て赤坂や」芭蕉
 <明石夜泊>
「蛸壺やはかなき夢を夏の月」同
「市中はものゝにほひや夏の月」凡兆
「遠浅に兵舟や夏の月」蕪村
「掃流す橋の埃や夏の月」太祇
「橋落て人岸にあり夏の月」同
「夏の月平陽の妓の水衣」召波
「少年の犬走らすや夏の月」同
「ほのめけるはし居の君や夏の月」同
「夏の月人語其邊を行たり来たり」虚子
広辞苑から。
なつ‐の‐つき【夏の月】
夏の涼しい感じの月。季・夏
そこで一句。
「ふらふらと橋のたもとや夏の月」よっち

胡瓜(きうり)
他の瓜は地に這はせるが、これは棚などに攀らせる。
円く長い青い実が面白いやうにぶら下がつてゐる。
疣があつて海鼠のやうなものである。少しいぢけた
ものになるとそつくりである。胡瓜揉や漬物にする。
「なり過ぎてもらひてもなき胡瓜かな」露子
「一かゝへ馬に胡瓜をやりにけり」同
「懈りし棚拵へや胡瓜畑」躑躅
「寫し倦む過去帳や胡瓜見て来よか」静雲
「へぼ胡瓜盆の佛の馬になれ」自得
「胡瓜揉むまづしきまゝの通夜支度」藻花
「胡瓜もみ淡し友情濃やかに」残雪
 <嘲吏青嵐>
「人間吏となるも風流胡瓜の曲るも亦」虚子
広辞苑から。
きゅうり【胡瓜・黄瓜・木瓜】キウリ
(「黄キ瓜ウリ」の意) ウリ科の一年生果菜。原産地は
インドとされ、わが国には古く中国を経て渡来。蔓
性草本。雌雄異花で、初夏に黄色の五弁花をつける。
果実は細長く緑色、とげ状のいぼがあり、熟すれば
黄色となる。若い果実を生食し、また漬物・ピクル
スなどにする。唐瓜。季・夏。〈和名抄一七〉
そこで一句。
「胡瓜もぐ手にとげ痛し軍手する」よっち

風鈴(ふうりん)
金属又は硝子で作り、内部から舌を垂らし、短冊を
付けたりしてある。金属製のものは鐘の形のものが
多く、硝子製のものは球形のものが多い。共に軒や
窓などに吊つてその涼音を賞する。風鈴売。
「雨やどり軒風鈴の鳴きつづき」菊女
「風鈴の短冊かろく逆立ちぬ」武山
「風鈴のふれたる髪に手をかざし」辰之丞
「風鈴の下にけふわれ一布衣たり」風生
「風鈴の音を点ぜし軒端かな」虚子

金魚(きんぎょ)
夏期の観賞用にされる。近来人工的に色々な新品種
を作り出すに至つた。器鉢に入れたり、軒に吊られ
たり、机邊におかれたりする。日蔭を選びながら金
魚売が荷を下ろす。縁日の路傍には掬い捕りをやら
せる金魚売が店を張る。「後柏原天皇の文龜三年、
金魚はじめて堺の港に入る」といふ記録がある。
「もらひ来る茶碗の中の金魚かな」鳴雪
「泡を吐く金魚に落ちぬ松の風」野風呂
「金魚大鱗夕焼の空の如きあり」たかし
「かりそめの鉢に放ちし金魚かな」喜太郎
「吾もありと金魚の中の目高かな」一轉
「忘られし金魚の命淋しさよ」虚子

祇園祭(ぎをんまつり)
京都八坂神社の祭礼をいふ。七月十七日の神幸祭。
二十四日の還幸祭が最も賑ふ。葵祭と共に京都二大
祭礼として有名である。祭礼に先だち、一日から二
階囃(にかいばやし)と称して、毎夜鉦・笛・太鼓
で祇園囃の稽古がある。十日には加茂川で神輿洗の
儀があり、この日鉾立(ほこたて)と称して山・鉾
を町にたて、二階囃をこれに移す、これを宵山(よ
ひやま)又は宵飾といひ、この鉾のある町を鉾町(
ほこまち)と称する。十六日は宵宮で、家々では祭
飾をし参詣者が頗る多い。之を宵宮詣といふ。十七
日の神幸祭には山・鉾列を整へて巡行し、夕刻元の
位置に還る。鉾には鉾の兒(ほこのちご)をのせる。
この日三基の神輿には弦召(つるめそ)等甲冑を着
て従行し、御旅所に渡御して神幸祭を終る。還幸祭
までは花街から婦女の参詣が多く、無言でないと念
願の験がないといつて無言詣の名がある。二十三日
に鬮取りをする。これを山鬮(やまくじ)と称する。
二十四日夜還幸となるのである。
祇園會(ぎおんゑ)。
「月鉾や兒の額の薄粧」會良
「祇園會や二階に顔のうづ高き」子規
「風の日は祇園囃子の聞えけり」不彩
「宵鉾の人のながれにしたがひぬ」朱泥
「二階より鉾へ出入や祭宿」浩村

蝉(せみ)
炎熱の夏を、シヤワシヤワと鳴き、ミンミンと鳴き、ニー
ニーと鳴き、ジーと鳴く。緑陰にあつて、降るやうな蝉の
声を蝉時雨とも表現する。鳴かない雄を唖蝉(おしぜみ)
といふ。初蝉。油蝉。みんみん。
「しづかさや岩にしみ入る蝉の声」芭蕉
「はつ蝉の今這登る榎かな」闌更
「蜘の巣に月さしこんで夜の蝉」一茶
「八方に蝉の飛び立つ一木かな」精
「夜蝉ふと声落したる闇深し」としを
「人病むやひたと来て鳴く壁の蝉」虚子

裸(はだか)
炎暑の折には裸になつて寛ぐことが多い。赤裸。素裸。丸
裸。真裸。裸人。裸子。
「硝子吹く胸汚したる裸かな」月舟
「海荒や裸の上に蓑を着る」的浦
「老僕の裸あはれに見たりけり」雀王
「風呂出てし裸に牛をしまひけり」泊露
「近く来し蚊を吹きにける裸かな」かな女
「裸児のすがり立ちたる柱かな」宵車
「梅干を入れに出でたる裸かな」無錫
「裸人腹折曲げてあはれなり」夢筆
「干乾びて佛のごとき裸かな」同
「おちんこも欣々然と裸かな」虚吼
「闇なれば衣まとふ間の裸かな」虚子
広辞苑から。
はだか【裸】
(ハダアカ(肌赤)の約)
@衣服を脱ぎ、全身の肌のあらわれていること。すはだ。
あかはだ。裸体。季・夏。
紫式部日記「―なる人ぞふたりゐたる」
A転じて、おおいや飾りのないこと。むきだし。
Bつつみ隠すところのないこと。赤裸々。浮、御前義経
記「我が身の上を―になして語りません」
C所持品のないこと。無一物(ムイチモツ)。裸一貫
そこで一句。
「ふるちんで子供等川に遊びけり」よっち

夏休(なつやすみ)
諸学校に於ては毎年七月二十日頃から定期休校をな
し、長いのは九月上旬に及ぶものがある。諸官署の
暑中の定期休暇の制は廃されたが、尚賜暇を得るも
のが多い。銀行・会社でも若干日の休暇がある。こ
の休暇を利用して避暑又は帰省するものが多い。暑
中休暇。暑中休。
「学校の前を通りぬ夏休」笑人
「校門を出て別るゝや夏休」鬼峰
「寺の子は寺のつとめや夏休」雨圃子
「夏休ピアノマンドリンひくばかり」別天女
「下宿屋の西日の部屋や夏休」虚子
広辞苑から。
なつ‐やすみ【夏休み】
学校・会社などで、夏季に、その業を休むこと。暑
中休暇。季・夏
そこで一句。
「早過ぎる一週間や夏休み」よっち

土用(どよう)
一年を四季に分つ他に、五行(木、火、土、金、水)
といふものを考へた。そして春は木、夏は火、秋は
金、冬は水の支配するところとして、残った土の支
配する所は各季の終わりに置いて土用とした。それ
で四季共に十八・九日間土用といふものがあるわけ
であるが、今は普通土用といへば夏の土用のみを指
すことになつたのである。七月二十日頃の小暑から
約十八日間がこの期に当る。土用は土気が旺んで、
暑気が甚だしく、土用入の日を土用太郎といひ、第
二、第三日目を土用次郎、土用三郎といふ。土用明。
「帆柱に苔干す舟の土用かな」海如
「さわさわと掃くや土用の青畳」草城
「土用の日浅間ケ嶽に落ちこんだり」鬼城
「娵つれてよき姑や丑湯治」方水
広辞苑から。
ど‐よう【土用】
暦法で、立夏の前一八日を春の土用、立秋の前一八日
を夏の土用、立冬の前一八日を秋の土用、立春の前一
八日を冬の土用といい、その初めの日を土用の入りと
いう。普通には夏の土用を指していう。季・夏。
「―の丑(ウシ)の日」
そこで一句。
「土用の日今朝は晴れかな鶏が鳴く」よっち

梅干(うめぼし)
数日塩漬にした梅を一先づ日に曝し、紫蘇を加へて
漬けなほし、更にこれを干すのである。筵・戸板・
笊などに並べて干す。夜干にして露に当てるならは
しがある。梅を干すのは土用中が一番いいといふ。
梅漬。梅筵(うめむしろ)。梅干す。干梅。
「梅干すや庭にしたたる紫蘇の汁」子規
「梅干にすでに日蔭や一むしろ」碧悟洞
「母逝きてすることありぬ梅を干す」俳歩
「申年の梅は薬と漬けにけり」水鳴
「梅干して人は日陰にかくれけり」汀女
「梅干の稍々皺出来て干されけり」虚子

夏痩(なつやせ)
暑気のために食欲が減じ、身体が疲労衰弱して痩せ
ることで、夏負ともいふ。
「夏痩やあしたゆふべの食好み」几菫
「夏痩や飯を好まず煙草のむ」青鏡
「夏痩や頬も色どらず束ね髪」久女
「夏痩や替へもして見る髪容」巴城
「夏痩の顔うちよせし鏡かな」寶玉
「夏痩の脛をかゝへて語りけり」市兵衛
「夏痩や持古びたる俳句集」秋月
「夏痩や白粉焼もともなうて」闌春
「夏痩のかひなをだして襷がけ」三千女
「夏やせの女あはれや猫が好き」つや女
「夏痩の肩をすべりぬ五條袈裟」月尚
「夏痩の頬を流れたる冠紐」虚子
広辞苑から。
なつ‐やせ【夏痩せ】
夏、暑さのために、身体が衰弱してやせること。季・夏。
万一六「―に良しといふ物そ鰻(ムナギ)取りめせ」
そこで一句。
「夏痩や食べても寝てもままならず」よっち

川開(かはびらき)
東京隅田川両国橋畔の上下流に於て、毎年七月の下
旬頃大花火を打ちあぐる行事がある。これを川開と
いふ。この日両岸の料理店其の他では、桟敷を設け
紅提灯を吊りなどして客を招じ、水上には見物船が
密集して水も陸も頗る雑沓する。東京の一名物であ
る。両国の花火。
「川開近くに住みて留守居かな」茶泊
「ふなべりを女ゆききや川開」清三郎
広辞苑から。
かわ‐びらき【川開き】カハ‥
川の納涼の季節の開始を祝い水難防止を願う行事。
江戸時代、旧暦五月二八日に隅田川の両国橋の下で
花火をあげて行なったのが名高い。季・夏
そこで一句。
「川開き鍵屋玉屋の見せ所」よっち

夕顔(ゆふがほ)

昼は萎んで夕から開くから夕顔といふ。花冠は平た
く五裂した白花。「五位以上の家には、はひよらせ
ぬといひならはして、ただ茅屋(くずや)の軒のは
なにさかえ、五でうわたりのあばらやなどに、えみ
の眉ひらきかかれるやうにのみ、したつ」と山の井
にある。昔の人は夕顔のつぼみは蠶(かいこ)のま
ゆに似てゐると見た。秋、瓢箪と同じやうな実がな
る。
「夕顔や秋はいろいろの瓢かな」芭蕉
「夕顔のかすかにゆれて開くかな」三千春
「夕顔やすなほに出来し今日の髪」茅花女
「夕顔や床几の上の渋団扇」きみゑ
「夕顔やきのふの如きけふの暮」波村
「夕顔や禄たまはりし文使」虚子

睡蓮(すゐれん)

二寸くらゐの紅白の花をつけるもので、夏の末咲く。
夜は閉ぢて昼また咲く。それで睡蓮といふのださう
である。別に未草(ひつじぐさ)とも呼ばれる。こ
れは未の刻(午後二時)から閉ぢはじめると見た名
前である。沼澤に生ずる蓮の属で、多数の円い、基
部に切れ込みを持つた葉を水面に浮かべてゐる。葉
裏は紅紫色である。葉も花も蓮より小さい。
「一ならび睡蓮の葉の吹かれたつ」立子
「睡蓮に夕波しげくなりにけり」けん一
「睡蓮や髪に手あてゝ水鏡」久女
「睡蓮に水玉走る夕立かな」泊雲
「睡蓮の赤き葉裏やうらがへし」萬喜子
「睡蓮の葉に掌をかけて亀しばし」たかし
広辞苑から。
すい‐れん【睡蓮】
@スイレン科スイレン属の淡水産水草の総称。わが
国に自生するヒツジグサのほか、世界の熱帯・温帯
に約五○種が知られる。泥中の根茎の一端から長柄
ある葉を伸ばして水面に浮き、夏、長い花柄の先端
に一花をつける。螺旋(ラセン)状に配列する多数の花
弁は赤・紫・白などで美しい。普通には北米産の種
類が多く、温室ではアフリカ産の熱帯スイレンも栽
培される。花が夜は閉じ、昼に咲き、蓮に似た形な
ので、この名がある。季・夏
Aヒツジグサの漢名。
そこで一句。
「睡蓮の葉の下にゐる緋鯉かな」よっち

蓮(はす)

紅・白の花をつける。「にごりにしまぬ花はちす」といつて、
「君子花」の称を持つてゐる。まことに美しいが賑やかなも
のではない。花も葉も大きいが豊厚の感じはこれを見ること
が出来ないやうである。宗教上では極楽浄土の象徴花とされ
て蓮華といふ。実は採つて食べ、根茎は掘つてたべる。はち
す。蓮の花。白蓮。紅蓮。蓮見。蓮見舟。蓮池。
「さはさはと蓮をうごかす池の亀」鬼貫
「戸を明けて蚊帳に蓮の主人かな」蕪村
「蓮池の田風にしらむうら葉かな」同
「わけ入や浮葉乗越蓮見舟」几菫
「とく起よ花の君子を訪日なら」召波
「釣舟に御僧を乗せて蓮見かな」維駒
「蓮の香に起きて米炊ぐあるじかな」巣兆
「会はてゝ人皆蓮に対すかな」梧月
「舟に居て古に似し蓮の月」芒頑石
「利根川のふるきみなとの蓮かな」秋櫻子
「あか白とうち重なりぬ散蓮華」友次郎
「黎明の雨はらはらと蓮の花」虚子
広辞苑から。
はす【蓮・藕】
(「はちす」の略) スイレン科ハス属の多年草。インドなどの
原産。古く大陸から渡来した。仏教とのかかわりが強く、寺
院の池、また池沼・水田などに栽培。長い根茎を有し先端に
ゆくほど肥大し、ひげ根を出す。葉は水面にぬき出て、円く
楯形で直径六○センチメートル内外に達し、長柄を有する。夏、白色
または紅色などの花を開く。普通一六弁。果実・根茎(蓮根レン
コン)などを食用。古名、はちす。季・夏
そこで一句。
「不忍の池にこぼれる蓮の花」よっち

茄子(なすび)
茄子は晩夏から初秋に亙る。長短・大小、中々種類
が多いやうであるが、大概紫黒色。煮・汁・和へ・
焼き・漬ける、何れもうまい。花も夏。別項。秋に
「秋茄子」がある。なす。初茄子(はつなすび)
「一本のなすびも余る住ひかな」杏雨
「生きて世にひとの年忌や初茄子」几菫
「茄子汁冷えて沈みし茄子かな」武象
「茄子売の老女一人に渡舟出づ」眉峰
「茄子汁の汁のうまさよ山の寺」鬼城
「貰茄子ギユウギユウ軋る籃の中」虚吼
「茄子もぐや日の照りかへす櫛みね」久女
「命日のけふは夕餉も茄子汁」月尚
「茄子汁主人好めば今日も今日も」虚子
広辞苑から。
なすび【茄・茄子】
@ナスの別称。〈本草和名〉
A紋所の名。茄子の果実・花・葉を組み合せて描いたもの。
なす【茄子】
(「なすび」とも)
ナス科の野菜で、栽培上は一年草。インド原産とされ、広
く温帯・熱帯で栽培。茎は八○センチメートルに達し、葉は卵形。
夏・秋に淡紫色の合弁花を葉のつけ根に開く。果実は倒卵
形・球形または細長い楕円形で、紫黒色または黄白色、長
さ二○センチメートル以上になるものもある。食用とする。栽培
品種が極めて多く、加茂茄子など各地方に独特のものがあ
る。季・夏。
そこで一句。
「箸さして仏に供ふ茄子の馬」よっち

向日葵(ひまはり)
六・七尺もあらう茎の頂きに、太鼓の廻りに黄色の
花弁を一列につけた、直系七・八寸のある大きな花
が眩しい日の下に開いてゐる様はいかにも夏の花と
いふ感じを受ける。この花は常に花の面を日に向け
て咲きたかぶつてゐるところから其名があり、又日
車草、・日輪草とも称ばれる。
「向日葵や今日も稼いで戻りけり」碧虚郎
「向日葵に日南夕立ありにけり」伐桂郎
「日を追はぬ大向日葵となりにけり」しづの女
「向日葵の泥のまんまに起されし」湘海
「向日葵の花の面に立ちにけり」吉皐
「向日葵をつよく彩る色は黒」杞陽
「向日葵の月に遊ぶ漁師たち」普羅
「向日葵や醜草刈れば蟻をどる」はじめ
「向日葵もなべてあはれの月夜かな」水巴
「移民小屋大向日葵の中にあり」青水草
「たまたまの日も向日葵の失へる」汀女
「向日葵がすきで狂ひて死にし畫家」虚子
広辞苑から。
ひ‐まわり【日回り・向日葵】‥マハリ
キク科の一年草。北アメリカ原産。茎は長大で剛毛
を生じ、高さ一〜二メートルに達する。夏、直径二○セン
チメートルに達する大形の黄色い頭花を開く。観賞用と
し、また油料作物とし種子から油を採る。太陽を追
って花がまわるという俗説があるが、実際にはほと
んど動かない。園芸品種がある。日輪草。ひぐるま。
季・夏
そこで一句。
「向日葵の大きく育ち倒れるな」よっち

百日紅(さるすべり)

樹皮が滑らかで猿も攀(よ)ぢ難いといふので「サルスベリ」
の名がある。小さな楕円形の葉の上に紅色のこまかい花を夏
の半ば頃から秋の半ば頃まで咲きつづけてゐる。それで百日
紅(ひゃくじつこう)とも呼ばれる。稀に白色の花もあると。
俗に「くすぐりの木」といふ。枝腋をさすれば枝葉はむずが
るやうな動き方をするといふのである。
「百日紅毎日散つて盛んなリ」習先
「鎌研いで昼になりけり百日紅」花酔
「浴衣縫つ心明るし百日紅」とき女
「凪雲迅し百日紅の下を掃く」岬雲
「ポムプ古りて重たき井戸や百日紅」柴葉
「百日紅乙女の一身またたく間に」草田男
「三伏の門に二本の百日紅」花蓑
「柴のさるすべりかやちりしける」晴子
「百日紅面皰(にきび)は舎利を吹きいでぬ」茅舎
「武家屋敷めきて宿屋や百日紅」虚子
広辞苑から。
さる‐すべり【猿滑り・百日紅・紫薇花】
(幹の皮が滑らかなので猿もすべるの意)
@ミソハギ科の落葉高木。中国南部の原産。幹は高さ数メートル。
平滑でこぶが多く、淡褐色。葉は楕円形で四稜のある枝に対生。
秋に紅葉する。夏から秋に鮮紅色または白色の小花が群がり咲
く。庭木としてわが国で古くから栽培。材は緻密で細工用。ヒ
ャクジツコウ。サルナメリ。季・夏。
毛吹草六u山王の山の紅葉や―」(道寿)
Aヒメシャラの別称。
そこで一句。
「百日紅青い背景よく似合う」よっち

病葉(わくらば)
木の葉が夏のうちから黄に或は白つぽくなつて力な
く垂れ、若くは蟲がついて縮み丸まり、或は吹き散
つてゐるのを見るであらう。それをいふのである。
「病葉や我がものつけし一盥」菫糸
「病葉や毎朝皆ふる手水鉢」櫻坡子
「病葉の追落つ一葉つと迅く」岬人
「病葉のとゞまるごとく落つるあり」青椒
「病葉の美しければ拾ひけり」櫻人
「病葉や大地に何の病あり」虚子
広辞苑から。
わくら‐ば【病葉・嫩葉】
@木の若葉。易林本節用集「嫩葉、ワクラバ」
A病気におかされた葉。また、色づきすがれた葉。
季・夏。〈書言字考〉
そこで一句。
「病葉の一葉目立ちて取りにけり」よっち



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