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三省堂 「新歳時記」 虚子編から
季語の資料として引用しています。

五月の季語

夏(なつ)
立夏(五月六日)から立秋(八月八日)の前日に亙る期間で
ある。月でいへば便宜上、五・六・七月を夏季とする。
九夏と称し三夏といふ。それぞれ夏九十日間、及び初夏
・仲夏・季夏の総称である。島の夏・夏の寺・夏の宮等。
「座敷まで届かぬ夏の木陰かな」野坡
「夏嵐机上の白紙飛び尽す」子規
「夏宮や松に吊りたる御手拭」賓水
「妓をやめて三とせになりぬ夏小袖」ひろ子
「たんぽゝの花大いさよ蝦夷の夏」多加女
「夏の雲みな尾を振りて牧の馬」李江
「金毘羅の夏枯宿屋並びけり」竹人
「夏の日の北行く船にやはらかに」」友次郎
「夏空や廃れて高き煙出」月城
「太き道一筋夏の園に在り」虚子
広辞苑から。
なつ[夏]
(朝鮮語のnierym(夏)、満州語のniyengiyeri(春)など
アルタイ諸語で「若い」「新鮮な」の語と同源か。アツ(
暑)・ナル(生)・ネツ(熱の字音)からなどともいう)
四季の一。春の次、秋の前で、現在一般には6・7・8の
3ヶ月。陰暦では立夏から立秋まで、4・5・6の3ヶ月。
天文学上では、大要が夏至点を通過して秋分点に来るまで、
すなわち6月22日前後から9月23日前後まで。四季の
中で最も暑い。
そこで一句。
「空の青海の青さや島の夏」よっち

牡丹(ぼたん)


花の王といはれるくらゐで、極大輪の豊麗な花を開
く。品種は玉緑・百花撰・楊貴妃・司獅子・太平紅
等非常に多い。花期は五月初頃。蕾も真円く大きく
て面白い。牡丹の名所としては大和の長谷寺最も聞
え、大和常麻寺・岩代須賀川・蛇の鼻・下総の松戸
等花期には杖を曳く人が多い。
ぼうたん。白牡丹(はくぼたん)。緋牡丹(ひぼた
ん)。牡丹園(ぼたんゑん)。
「廣庭のぼたんや天の一方に」蕪村
「牡丹切て気の衰ひしゆふべかな」蕪村
「ちりて後おもかげにたつぼたんかな」蕪村
「牡丹一輪筒に傾く日数かな」太祇
「ねたまるゝ人の園生の牡丹かな」几董
「牡丹載せて今戸へ帰る小船かな」子規
「日輪を送りて月の牡丹かな」水巴
「夜の色に沈みゆくなり大牡丹」素十
「白牡丹といふといへども紅(こう)ほのか」虚子
広辞苑から。
ぼたん[牡丹]
ボタン科の落葉低木。中国原産。中国で花王と称する。
観賞用・薬用に古くから栽培。高さ1メートル余。葉
は羽状複葉。4〜5月頃、直径20センチメートルも
ある美花を開く。園芸品種が多く、色は紅・白・淡紅
など。根皮は制約のボタン皮で、頭痛・腰痛・婦人病
などの治療に用いる。二十日草。深見草。名取草。山
橘。<季夏>
そこで一句。
「傘さして雨に備える牡丹かな」よっち

更衣(ころもがへ)
冬から春にかけて着用した衣を着更へることをい
ふ。昔は四月朔日を更衣として着物、調度を取り
かへたもので、今も尚五月一日から袷、六月一日
から単衣、七月一日から帷子に着かへる習慣のあ
る地方もある。
朔日(さくじつ:ついたち)
帷子(かたびら:裏をつけない衣服。ひとえもの。暑衣。)
「衣更て座つて見てもひとりかな」一茶
「衣更へて夜店に妻を誘ひけり」筍吉
「ものなくて軽き袂や更衣」虚子

袷(あはせ)
裏地のついた着物をいふ。又綿入の綿を抜いた袷を綿抜と
いつて、昔はさういふこともしたものだが、今はあまりし
ない。秋着る袷は特に秋袷といふ。素袷(すあはせ)は素
肌に着た袷で芸者等に見かける。
初袷(はつあはせ)。古袷(あはせ)。絹袷。袷時。
「絹袷さらりとほぐし着たるかな」温亭
「袷着ててんてんうごく女房かな」暁水
「袷着て女房ぶりやちりはらい」 同
「蓬々と汝が着たる袷かな」虚子

端午(たんご)
五節句の一。五月五日の節句をいふ。端は初、午は
五で五月初の五日の意味である。又五を重ぬる故重
五といひ、菖蒲の節句・菖蒲の日ともいふ。この日
男子のある家々では幟を建て、軒に菖蒲を葺き、武
者人形を飾り、菖蒲酒、粽又は柏餅を供へて祝ふ。
男子生れて初めての節句を初節句といふ。
この端午の節句は立夏の前日の五月五日であつて、
厳密にいへば晩春に置くべきものであるが、地方な
どでは旧暦の五月五日に行ふ処も多く、東京地方も
菖蒲の節句として夏の行事をして取り行ふ慣習が未
だ脱しないで居る。僅か一・二日の違ひであるから
特に初夏の行事としてこゝに据ゑて置く。現在はこ
の日を子供の日と称し国祭日の一日としてある。
「鯨漁とれて氷見はあやめの節句かな」八郎
広辞苑から。
たん・ご[端午]
(「端」は初めの意。もと中国で月の初めの午の日、
のち「午」は「5」と音通などにより五月5日をいう)
5節句の一。5月5日の節句。古来、邪気を払うため
菖蒲(しょうぶ)や蓬(よもぎ)を軒に挿し、粽(ち
まき)や柏餅を食べる。菖蒲と尚武の音通もあって、
近世以降は男子の節句とされ、甲冑・武者人形などを
飾り、庭前に幟旗や鯉幟(こいのぼり)を立てて男子
の成長を祝う。第二次大戦後は「こどもの日」として
国民の祝日の一。あやめの節句。重五(ちょうご)。
端陽。<季夏>
石巻には石ノ森章太郎氏の漫画館ができました。
息子と一緒に見学に行ってきます。
そこで一句。
「石ノ森漫画の館へ子供の日」よっち

菖蒲(しやうぶ)

全体に良い香があり,端午の節句に飾ったり菖蒲湯と
して使われるのでなじみは深いかもしれませんが,ハ
ナショウブ(花菖蒲)やアヤメ(菖蒲)と混同してい
るかもしれませんね。ショウブの花は地味なものです。
ショウブはアヤメ科ではなくてサトイモ科とのことです。

芳香を持つたこの茎や葉は、端午の節句にはなくて
かなはぬもので、軒にかける許りでなく頭にかざし、
湯に入れ酒にもつくる。昔はこれを「あやめ」とい
つた。あやめぐさ。
「古妻やあやめの冠着たりけり」乙二
「それぞれに菖蒲髪なる遊女かな」進平
「病床の髷に節句の菖蒲かな」柳青
「おかつぱに菖蒲はちまきして来たり」孔甫
「後妻(うばなり)の菖蒲枕の高さかな」虚子

鯉幟(こひのぼり)
鯉形の幟で、五月鯉ともいひ、最も多く用ゐられて
ゐる。真鯉と緋鯉とがあつて、彩色によつて異つて
をる。
「五月鯉麦に垂れたる伏屋かな」小洒
「鯉幟の胴腹裂けてあふあふと」土音
「白腹のあらはに凪の鯉幟」若沙
「高枝を吹きはねし尾や鯉幟」たけし
「鯉幟麦の疾風に逆立ちて」花蓑
「大わだの風に揃へる鯉幟」央児
「黄砂を吸うて肉(しし)とす五月鯉」しづの女
「風吹けば来るや隣の鯉幟」虚子
広辞苑から。
こい‐のぼり【鯉幟】コヒ‥
紙または布で鯉の形につくった端午(タンゴ)の節句に
たてるのぼり。通例、吹流し型につくる。季・夏。
「―が泳ぐ」
そこで一句。
「尾を上に跳ね上げ遊ぶ鯉幟」よっち

粽(ちまき)
単語の節句に作る団子の一種である。普通糯米・粳(う
るち)の粉をねつたものを茅・笹・菰・葦・菅などの葉
で包み、これを蒸して作る。包んだ葉に依つて茅巻(ち
まき)・笹粽(ささちまき)・菰粽(こもちまき)・葦
粽(よしちまき)・菅粽(すげちまき)等の名がある。
飴粽は稲草で包み、内部が飴色なもの。飾粽は茅の葉を
用ゐ、巻いた茅の葉を長く残し少々直角に折り曲げ、葉
先をぴんとはねるやうに作り、普通十個づつ並べ括つて
一連としたもの。粽結(ちまきゆ)ふ。
「粽結ふかた手にはさむ額髪」芭蕉
「文もなく口上のなし粽五把」嵐雪
「粽解いて蘆吹く風の音聞かん」蕪村
「とくときの心安さよ笹ちまき」袖
「草籠に入れて戻りぬ粽笹」夜白
「粽食ふ母をわらひぬ勿体なし」月尚
「手作りのちまきうれしやあやめ草」香雲
「故郷は昔ながらの粽かな」虚子
広辞苑から。
ち‐まき【粽】
@(古く茅チガヤの葉で巻いたからいう) 端午の節句に食べ
る糯米(モチゴメ)粉・粳米(ウルチマイ)粉・葛粉などで作った餅。
長円錐形に固めて笹や真菰(マコモ)などの葉で巻き、藺草(イ
グサ)で縛って蒸したもの。中国では汨羅(ベキラ)に投身した
屈原の忌日が五月五日なので、その姉が弟を弔うために、
当日餅を江に投じてキュウ竜(キユウリヨウ)を祀ったのに始まる
という。伊勢「人のもとよりかざり―おこせたりする返事に」
A〔建〕柱の上下の、次第に円味をもってすぼまった部分。
鎌倉時代より始まった禅宗建築に多い手法。粽形。
そこで一句。
「故郷は三角粽の笹粽」よっち
「笹をむき黄な粉こぼして粽食ふ」よっち

新茶(しんちや)
其年始めて市場に出た茶を新茶または走り茶とい
ふ。三重県・宇治・静岡は茶の産地として名高い。
東京付近では狭山町が有名である。
「宇治に似て山なつかしき新茶かな」支考
「嵯峨の柴折焚宇治の新茶かな」蓼太
「新茶入る故郷の柚餅子のあり合す」蘇甫
「さらさらと溢るゝ新茶壷の肩」羽公
「方丈に今とどきたる新茶かな」虚子
広辞苑から。
しん‐ちゃ【新茶】
@新芽を摘んで製した、その年の新しい茶。香気が
殊に高い。はしりちゃ。季・夏。〈日葡〉⇔古茶。
A初めて出た遊女。(元禄時代の語)
そこで一句。
「手ごねして香り漂い新茶かな」よっち

夏めく(なつめく)
花を落すと、木々はやがて夏の装ひをはじめる。気
象・風物、どことなく夏らしい輝きを待ち、人事・
調度にも夏めきが見えて来る。
「夏めきて人顔みゆるゆふべかな」成美
「釣人に雨来て渚夏めきぬ」隆子
「夏めくや花鬼灯に朝の雨」楽天
「夏めくや塗替へて居る山の駅」夢筆
「夏めくや化粧うち栄え嬖(おもひもの)」虚子
広辞苑から。
なつ‐め・く【夏めく】
気候・風物が、夏らしくなること。季・夏
そこで一句。
「夏めくや電車待つ身と空の雲」よっち

薄暑(はくしょ)
初夏、五月頃の暑さをいつたものである。セルの頃
である。
「蟻の穴賑うてゐる薄暑かな」萋子
「再びの病にかちて薄暑かな」立子
「旅するは薄暑の頃をよしとする」虚子

セル
セル地を以て作つた単衣をいふ。セル地・ネル地の
単衣は袷から単衣に移る中間に用ゐる。
「セルを着て髪のかたちをかへにけり」貞女
「セルを着て苗代寒の一日かな」孔甫
「セルを着て髪切りたがる娘を叱る」月尚
「セルを着ていつまで抜けぬ京言葉」いはほ
「セルを着て病ありとも見えぬかな」虚子

ネル
ネル地で作つた単衣をいふ。婦人用や子供用として多
く用ゐる。セルが夏季に属するのに同じい。

夏場所(なつばしよ)
毎年五月十日前後から、東京両国の国技館に於て行
ふ大相撲をいつたのだが、現在では他の場所になつ
てゐる。大相撲は一月と五月の二回に行はれ、昔は
同所回向院で晴天十日間の興行であつたが、近年は
晴雨に拘らず十五日興行となつた。五月場所。
広辞苑から
なつ‐ばしょ【夏場所】
@大相撲の本場所の一。毎年五月に興行するもの。
五月場所。季・夏
A夏の最もよい場所。夏繁昌する場所。夏場。
そこで一句。
「夏場所や力士の後にそつと立ち」よっち

葵祭(あふひまつり)

五月十五日(もと四月中酉の日)、京都上加茂の加茂
別雷神社及下加茂の加茂御組神社の両社の大祭で、古
来単に祭といへばこの祭を意味した程に名高い。この
祭礼には社殿・攝・末社、翠簾に加茂葵を掛け、民家
も亦門毎に葵を掛ける。それで之を葵祭といふのであ
る。人々がこれを衣類や頭髪に掛けたのを葵鬘(あふ
ひかづら)又は諸鬘(もろかづら)と称して、雷除け
になるといひ伝ふ。
賀茂祭(かもまつり)。
「髭つらに葵かけたる祭かな」闌更
「道芝にあふひ祭の轍かな」随古
「地に落し葵踏み行く祭かな」子規
「しづしづと馬の足掻や賀茂祭」虚子

葵の葉

祭(まつり)
もと俳諧では山城の賀茂祭(葵祭)を指して祭又は神祭と
称し、その他の夏行ふ諸社の祭を夏祭と称したが、現今は
一般に総称する。陰祭(かげまつり)は本祭に対して簡単
な祭。夜宮(よみや)・宵宮(よいみや)又は宵祭(よい
まつり)は祭の前夜のこと。神輿(みこし)は神霊を移し
て之を舁(か)ぐもの。樽神輿(たるみこし)は酒樽又は
醤油樽で作つた子供用のもの。山車(だし)は人物・草木
・禽獣などを高く車上に飾りつけたもの。地車(だんじり)
は屋根造りの一種の囃車。山車・地車は共に鉦・太鼓・笛
で囃して引き廻るのである。
祭礼。渡御(とぎょ)。御旅所(おんたびしょ)。御輿舁
(みこしかき)。船渡御(ふなとぎょ)。祭舟。祭前。祭
あと。祭笛。祭太鼓。祭獅子。祭囃。祭提灯。祭笠。祭客。
祭見。祭髪。祭衣。祭宿。祭町。「里祭」は秋。「浦祭」
も里祭に準ずる。
「髭そりて青き面や祭人」櫻坡子
「あとじさる足踏みあひぬ荒神輿」青畝
「家を出て手をひかれたる祭かな」草田男
「老の顔祭花笠うちかむり」漾人
「祭馬きびしく口をとられたる」白川
「老禰宜の太鼓打居る祭かな」虚子

安居(あんご)
陰暦四月十六日から七月十五日迄、一夏(いちげ)九旬の間、
佛者が一室に籠居し、学徒が集合して経論を講じ或は行法を
修することで、夏籠(げごもり)とも夏行(げぎやう)とも
いふ。これは釈尊が母摩耶夫人のために報恩経を説かれたの
に始まるといふ。前安居は前期、中安居は中期、後安居は後
期の安居である。前安居に入るのを結夏(けつげ)又は結制
(けつせい)といひ、終わるのを解夏(秋季)といふ。佛者
の安居に対して緒家の者がその間有縁無縁の菩提のために飲
酒・肉食を断つことを夏断(げだち)といふ。夏勤(げつと
め)。夏入(げいり)。雨安居(うあんご)。
「白雨や安居の沓の流れ去」成美
「菩提樹に降りたる雲や夏行寺」金童
「僧の頭を僧のあたれる安居かな」左右
「まつさをな雨が降るなり雨安居」左右
「沙羅の花庭を流るゝ雨安居」山彦
「夏籠や葦座布団の二三枚」葛堂
「遠山に一瀑かゝる安居かな」義明
「橋落ちし麓のたより雨安居」暮汀
「夏に籠る師に薪水の労をとる」虚子
広辞苑から。
あん‐ご【安居】
〔仏〕(梵語 varsa  雨・雨期の意) 僧が一定期間外出しないで、
一室にこもって修行すること。普通、陰暦四月一六日に始まり七
月一五日に終る。雨安居(ウアンゴ)・夏安居(ゲアンゴ)・夏行(ゲギヨウ)
・夏籠(ゲゴモリ)・夏断(ゲダチ)などという。禅宗では冬にも安居
がある。季・夏。
そこで一句。
「同じ花咲いているはず雨安居」よっち

新樹(しんじゆ)
みづみづした新緑に粧はれて、見違へるやうになつ
た夏日の木を斯くいふのである。「新緑」といふの
も畢竟同じことだ。
「夜を訪へば門を壓する新樹かな」蚋魚
「賑しく瀧川かゝる新樹かな」鷹雲
「星屑や鬱然として夜の新樹かな」草城
「夜の雲に噴煙うつる新樹かな」秋櫻子
「焼岳のこよいも燃ゆる新樹かな」同
「つなぎたる馬頬ずりす新樹かな」躑躅
「菅笠へ新樹の雨ののびて落つ」友次郎
「瀧浴のまとふものなし夜の新樹」誓子
「白々と何の新樹か吹かれ立つ」晴子
「日々に色かはりゆく新樹かな」虚子
広辞苑から。
しん‐じゅ【新樹】
新緑の樹木。季・夏
そこで一句。
「仰ぎ見る日も柔らかに新樹かな」よっち

新緑(しんりょく)
初夏の木々の緑、甦つたやうな木々の葉の艶やかな
色栄え。吹く風も最も心地よい時季である。
緑(みどり)
「新緑やなが雨はれし筑後川」春夜妻
「新緑の街をゆく掌をポケットに」左右
「満目の緑に座る主かな」虚子

若葉(わかば)
新樹と同義ではあるが、言葉から受ける感じは少し
違ふかに思われる。いふまでもなくこれは樹木の新
たに出した葉をいふのである。
谷若葉。里若葉。若葉風。若葉雨。
「浅間山煙の中の若葉かな」蕪村
「消炭の庇にかわく若葉かな」一茶
「音たてて吹きなびきをり橡(とち)若葉」立子
「両岸の若葉せまりて船早し」虚子

筍(たけのこ)
竹にはいろいろの種類があるが、孟宗・真竹・破竹・苦
竹等が主なもので、それらが地下茎から出る新芽が筍で
ある。初夏各家庭の膳を賑はすことは誰でも知るところ
であらう。とりわけ孟宗竹は旬の生ずることも早く、味
も最も佳いとされてゐる。
たかうな。たかんなともいふ。笋(たけのこ)。竹の子。
「たけのこや稚き時の絵のすさび」芭蕉
「筍の根皮落して伸びにけり」温亭
「蕗むらに筍見えて来りけり」月魄
「一様に筍さげし土産かな」虚子

藜(あかざ)

初夏、嫩葉(わかば)を採つて食べる。はじめのうち
は紅紫色をしてゐるので名前をしたのであらう。やは
り夏、緑黄色の細い花が穂をなして綴り咲く。藜の杖
はこの老茎を以つてこしらへたものである。
<美濃己百亭>
「やどりせむ藜の杖になる日まで」芭蕉
「我寺の藜の杖になりにけり」惟然
「鎌とげば藜悲しむ景色あり」虚子

罌粟の花(けしのはな)

薬用又は観賞用として園圃に栽培されるもので、芥子とも書く。
葉は柄がなく茎を抱き、長楕円形で邊縁に缺刻があり、色は白
緑色である。茎の頂に極大輪の花を開く。一重もあるが八重の
方が多い。花色は純白もあり、紫もある。大阪府下三島郡は罌
粟栽培の盛んな所で、初夏の頃、見渡す限りの罌粟の花畑は見
事なものである。阿片はけしの実の未熟の時分に傷つけて白い
汁を採り、乾燥したものである。
芥子の花。白罌粟。罌粟畑。
「あるとなきと二本さしけりけしの花」智月
「僧になる子の美しや芥子の花」一茶
「海風に芥子の花ゆれ坊主ゆれ」きみ子
「己れ毒と知らで咲きけり罌粟の花」虚子

雛罌粟(ひなげし)

葉は一・二尺くらゐの高さで粗毛がある。葉は羽状
に分裂し、萼は二つあるが、初夏花を開くとともに
落ちる。四弁の深紅色の花が多いが、其他種々の色
のものもある。虞美人草(ぐびじんそう)。
「相ゆれてひなげしの花二つかな」一草
「我心或時軽し芥子の花」虚子
広辞苑から。
ひな‐げし【雛罌粟】
ケシ科の一年草。西アジア原産。高さ六○センチメートル、
全株に粗毛を密生。葉は羽状に深く裂ける。五月頃、
皺(シボ)のある薄い四弁花を開き、花色は紅・桃・
白・絞りなど。花壇用。ケシに似て小形、麻酔物質
を含まない。美人草。漢名、虞美人草・麗春花。ポ
ピー。季・夏


桐の花(きりのはな)

桐は高いのは三十尺くらゐに達するものもある。五
月頃其枝の先に穂を為して筒状の淡紫色の花をつけ
る。其落花も美しい。関東地方では上州、野州に多
い。
「桐の花石積む毎に沈む船」佳庭
「庇より落ちて来るなり桐の花」泥中
「桐の花日かげを為すに至らざる」虚子

柿若葉(かきわかば)
柿の若葉は異色がある。ちよぼちよぼとした嫩葉が段
段茂つて来ると、萌黄色の鮮かな若葉となる。
「土管継ぎし煙突立ちぬ柿若葉」白貧
「六十にして生れし家の柿若葉」水竹居
「温泉の小屋を出でし裸や柿若葉」王城
「富める家の光る瓦や柿若葉」虚子
広辞苑から。
かき‐わかば【柿若葉】
柿の美しい若葉。季・夏
そこで一句。
「朝日受け背伸びするかな柿若葉」よっち

アカシヤの花
はりゑんじゆ即ちあかしやは四・五丈にもなる刺の多い
落葉木で、初夏白色の蛾形花を房状に咲き垂る。街路樹
として各地に植ゑられる。
「小旋風を見しアカシヤの落花かな」和子
「アカシヤの花も終りの風雨かな」白萍
「アカシヤの花を掃きつゝ唄ひつゝ」魯考
「アカシヤの花吹雪するレールかな」檳椰子
「アカシヤの庵主が愛づる喧嘩蜂」しづの女
「ジプシーの胡藤の花に辻ダンス」星童
広辞苑から。
アカシア【Acacia ラテン】
@マメ科フサアカシア属植物(その学名)。常緑木本で、
おもにオーストラリア・アフリカなどに約八百種分布。
ネムノキに似て、枝に針がある。葉は羽状複葉。春か
ら夏、葉腋に無数の黄色または白色の小花を球状また
は穂状につけ、花後には莢(サヤ)を生ずる。材は建築・
船具・枕木などに用いる。
A別属のニセアカシア(ハリエンジュ)の俗称
そこで一句。
「アカシヤの並木木漏れ日歩く子等」よっち

薔薇(ばら)

(ビッグドリーム)
薔薇には種類が多く、白・紅・黄とりどり、花弁も大
小あり単複あり、開花季にも一季咲き・ニ季咲き・四
季咲きがある。外国では古来この花を愛玩し、冠婚葬
祭には必ず用ゐられる事は人の知るところであらう。
さうび。
「夜のばら障子の外に置きにけり」初瀬寺
「剪りそへて剪りそへて薔薇くれにけり」紅々
「くつきりと真紅のばらに葉かげかな」素十
「電車待つ垣根の薔薇今朝は雨」同
「薔薇を見て花圃を離るゝ一歩々々」つや女
「手の薔薇に蜂来れば我王の如し」草田男
「月の露光りつ消えつ薔薇の上」花蓑
「薔薇の香に伏してたよりを書く夜かな」友次郎
「ばらの門聖書手に手にくぐりゆく」きよし
「薔薇呉れて聖書かしたる女かな」虚子
広辞苑から。
ばら【薔薇】
バラ属の観賞用植物の総称。いくつかの原種が東西で古
くから観賞されてきたが、一九世紀以後に莫大な数の品
種が作られ、世界中で栽培される。つるばらと木ばらに
分けられ、花の形は大輪・小輪、一重咲・八重咲、剣咲
き・平咲きなど、花色は深紅・黄・白、また四季咲、小
形のミニチュア‐ローズなど極めて多彩。花の王と言わ
れる。香料用にも栽培。また、バラ科バラ属の落葉低木
の総称。高さ一〜二メートル。葉は有柄、托葉があり、羽状
複葉。花は高い香りをもち、基本型では萼片・花弁は各
五。北半球の温帯を中心に約二百種が分布。しょうび。
そうび。ローズ。季・夏
そこで一句。
「丹精に育てた薔薇や露に濡れ」よっち
「端然と真紅の薔薇の立ち居りし」よっち
「吾が思い薔薇に伝へてみませうか」よっち


卯の花(うのはな)

空木の花の略称である。野山や畑のへり等に自生し
てゐるのもあるが、又庭園や垣根などに栽ゑられも
する。幹の高さは五・六尺くらゐ、幹の中が空であ
るところから空木といはれる。葉は細くて狭く鋸歯
がある。初夏、五弁の白い小花が叢り咲く。陰暦四
月の代表花とされるくらゐで、古来詩や歌に多く詠
まれてゐて異名も多い。一種「箱根うつぎ」ははじ
めは同じく白色であるけれども、段々白紅・紫色を
交えて来て美しい。
「うの花やいづれの御所の賀茂詣」其角
「うの花の絶間たゝかん闇の門」去来
「卯の花や茶俵つくる宇治の里」召波
「卯の花の中行簑のしずくかな」曉臺
「石垣が水吐く寺や花卯木}梧月
「石垣に卯の花の散りかかりたる」秀翠
「月すでに光を得たり花うつぎ」みのる
「月明や更に卯の花明りして」賓水
「卯の花や佛(ぶつ)も願はず隠れ住む」虚子
広辞苑から。
う‐の‐はな【卯の花】
@ウツギの花。また、ウツギの別称。季・夏。万一
七「―は今そさかりと」
A襲(カサネ)の色目。山科流では、表は白、裏は萌葱(モエ
ギ)。四月に用いる。
B豆腐のしぼりかす。おから。雪花菜(キラズ)。
そこで一句。
「行き過ぎて残像のこらぬ花卯木」よっち
「山うつぎセーラー服の白さかな」よっち

穴子(あなご)
海底の砂泥中に穴居してゐる。鰻とよく似てゐるが
色が少し淡い。「はも」とも似てゐるが、もつと小
さく二尺止りである。口が小さい。初夏が産卵期で
ある。夜出て釣る。海鰻(あなご)
穴子を広辞苑から。
あな‐ご【穴子】
マアナゴの通称。ウナギに似た食用魚で、夏に美味。
季・夏
そこで一句。
「蒲焼のきざみ穴子が肴かな」よっち

鯖(さば)
鯖は初夏が産卵期で、その頃になると群れをなして近海に
集つて来る。これを網で獲り、或いは釣る。三才図会には
「能登の海上四月中、多き時数万、浪のために漂はさる。
釣せず網せず、亦獲可し」とある。大きさは一尺前後、細
鱗青蒼、背には斑紋がある。「秋鯖」といふ題が別にある。
鯖釣(さばつり)。
「鯖船の夜ごと夜ごとの灯かな」松葉女
「ごたごたと浜がせまくて鯖漁旗」五松
「漁父やさし堤げて訪ひ来し鯖一尾」峡川
「鯖の旬即ちこれを食ひにけり」虚子
広辞苑から。
さば【鯖】
サバ科サバ属の硬骨魚の総称。マサバ・ゴマサバ・グルク
マ(沖縄でグルクン)がある。特にマサバのこと。体長は約
五○センチメートル。サバ型といわれる美しい体形を持ち、背部
は青緑色で特異の流紋がある。日本近海に分布。食用。青
魚。青花魚。季・夏。
「今が時期さばの味噌煮に焼き魚」よっち
「祖母作るしめ鯖まねて今日の飯」よっち

飛魚(とびうを)
蒼白、一尺くらゐの魚で、非常に発達した胸鰭(むなびれ)
を持つてゐて水面を飛翔する。三才図会には「三・四月群
飛す。其飛ぶや水上を離るること尺許にして、一段ばかり
にして水に没し復飛ぶ。薩摩に最も多し」とある。産卵期
が初夏で、その頃よく海藻の多い浅所に寄つて来る。捕つ
て生飛魚・鹽飛魚のほか乾魚ともする。
とぼを。つばめ魚(うを)。
「飛魚に波ひとつなきうねりかな」今夜
「飛魚の波に飛びつき沈みけり」夏山
「飛魚のマストに風の叫ぶなり」三堂
「飛魚や北へ北へと宗谷丸」草石

山女(やまめ)

海に降らない鱒である。終生、山間の渓流中に棲ん
でゐるので習性は大変違ふ。岩魚や鮎と同属である
が、体側に十個の細長い黒点を持つてゐるのですぐ
区別される。五月のやまめは鮎よりもうまい。やま
べともいふ。東京で「やまべ」といふのは此魚でな
く追川魚(おいかは)のことである。
「煙草の火岩にはたけり山魚釣」漾人
「虎杖の小屋をうしろに山女釣」千代吉
「いづこより渡りし岩ぞ山女釣」虚子

麦(むぎ)

麦が成熟して刈取られるやうになるのは五月から遅くも
六月はじめまでで、田植前の風物である。麦には種類が
多い。大麦・小麦・裸麦・らい麦・燕麦など。その用途
も決して米に劣らない。
麦の穂。穂麦。
<行脚の客にあうて>
「いざ共に穂麦食らはん草枕」芭蕉
「つかみ合子供のたけや麦畑」遊刀
「痩麦や我身ひとりの小百姓」召波
「露草に飛びし麦穂を拾ひけり」土音
「朝燕麦穂の露の真白なる」泊雲
「熟麦に長雨今日も止まぬぞう」花兄
「麦の穂はのびて文福茶釜道」風生
「麦熟れて島うつくしくなりしかな」土堂
「麦熟れてどん百姓となりにけり」柳泉
「麦刈りや娘二人の女わざ」鬼城
「背低く麦かつぎをる孀(やもめ)かな」虚子
広辞苑から。
むぎ【麦】
イネ科に属するオオムギ・コムギ・ハダカムギ・ライム
ギ・エンバクなどの総称、またその穀実。古来、食用・
飼料として重要。茎も麦藁(ムギワラ)として、工芸材料・肥
料などに用いる。「麦」「麦の穂」は季・夏、「麦の
芽」は季・冬。万一二「馬柵(ウマセ)越しに―咋(ハ)む駒
の詈(ノ)らゆれど猶し恋しく思ひかねつも」
そこで一句。
「麦熟れて風吹き雨も降りにけり」よっち

麦笛(むぎぶえ)
麦の茎で作つた笛。柔い茎を一寸程に切つて、一寸
噛んで吹いても鳴り、又長い一節をとつて節近くを
少し割つて吹いても鳴る。多くの子供達が黒穂の茎
で造る。
「麦笛や雨あがりたる垣のそと」秋櫻子
「麦笛やおのが吹きつゝ遠音とも」爽雨
「暮れてなほ麦笛の音のあるごとし」一四朗
「吹き捨てし麦笛流れ行きにけり」浩
「麦笛の頬ふるはして上手かな」ひろ女
「麦笛に麦笛答へゐたりけり」ゆたか
「麦笛や四十の恋の合図吹く」虚子
広辞苑から。
むぎ‐ぶえ【麦笛】
麦の茎で作り、笛のように吹き鳴らすもの。むぎわ
らぶえ。季・夏。聞書集「うなひ児がすさみにな
らす―の声に驚く夏の昼ぶし」
そこで一句。
「麦笛や牛が草食む道の端」よっち

麦の秋(むぎのあき)
秋は百穀成就の時であるが、麦は夏日の下に黄熟す
る。それでかういふ名がある。まだ烈日といふ程で
もなく、満目新緑のなかに麦が黄熟するのは美しい。
麦秋(むぎあき)。
「麦の秋さびしき顔の狂女かな」蕪村
「病人の駕も過けり麦の秋」同
「麦秋や出駕も見えぬ間の宿」他有
「麦秋の草臥声や念仏講」几菫
「麦秋の向ふに見るや裸山」鬼史
「麦秋や頬を地につけて風呂火吹く」泊雲
「駆けつけて駅で別れぬ麦の秋」泊月
「雨二滴日は照りかへす麦の秋」虚子
広辞苑から。
むぎ‐の‐あき【麦の秋】
「麦秋(バクシユウ)」の訓読。むぎあき。季・夏。正
暦四年帯刀陣歌合「送るてふ蝉の初声聞くよりも今
はと―を知りぬる」
そこで一句。
「麦の秋ただ朝風の吹きわたる」よっち

羊蹄の花(ぎしぎしのはな)

淡緑色の小さい花で、花軸の節毎に十数花づつ層
をなして咲いてゐる。路傍の湿地に多い。花後、
実を結び、夏至即ち枯る、といはれる草である。
葉は尺余、長大で、牛の舌に似てゐると見て「牛
舌(ぎゅうぜつ)」ともいつた。根は太く黄色で、
羊蹄はこの容を採つて名としたものである。実の
なつた枝を振ればギシギシと鳴るからぎしぎしと
いふ。
「羊蹄に雨至らざる埃かな」青夷

都草(みやこぐさ)

五月頃、蝶形の黄色い花を枝頭につける。高さ三寸
くらゐで半ば臥してをり、三分程の小さい三つ葉を
つけて、路傍などにも生えてゐる草である。花は可
憐で風情があるが、欧米では「復讐」を象徴せしめ
るといふ。
「黄なる花都草とは思へども」いはほ
「宇陀の野に都草とはなつかしや」虚子

麦(むぎ)
麦が成熟して刈取られるやうになるのは五月から遅くも
六月はじめまでで、田植前の風物である。麦には種類が
多い。大麦・小麦・裸麦・らい麦・燕麦など。その用途
も決して米に劣らない。麦の穂。穂麦。
<行脚の客にあうて>
「いざ共に穂麦食らはん草枕」芭蕉
「つかみ合子供のたけや麦畑」遊刀
「痩麦や我身ひとりの小百姓」召波
「露草に飛びし麦穂を拾ひけり」土音
「朝燕麦穂の露の真白なる」泊雲
「熟麦に長雨今日も止まぬぞう」花兄
「麦の穂はのびて文福茶釜道」風生
「麦熟れて島うつくしくなりしかな」土堂
「麦熟れてどん百姓となりにけり」柳泉
「麦刈りや娘二人の女わざ」鬼城
「背低く麦かつぎをる孀(やもめ)かな」虚子
広辞苑から。
むぎ【麦】
イネ科に属するオオムギ・コムギ・ハダカムギ・ライム
ギ・エンバクなどの総称、またその穀実。古来、食用・
飼料として重要。茎も麦藁(ムギワラ)として、工芸材料・肥
料などに用いる。「麦」「麦の穂」は季・夏、「麦の
芽」は季・冬。万一二「馬柵(ウマセ)越しに―咋(ハ)む駒
の詈(ノ)らゆれど猶し恋しく思ひかねつも」
そこで一句。
「麦熟れて風吹き雨も降りにけり」よっち


麦笛(むぎぶえ)
麦の茎で作つた笛。柔い茎を一寸程に切つて、一寸
噛んで吹いても鳴り、又長い一節をとつて節近くを
少し割つて吹いても鳴る。多くの子供達が黒穂の茎
で造る。
「麦笛や雨あがりたる垣のそと」秋櫻子
「麦笛やおのが吹きつゝ遠音とも」爽雨
「暮れてなほ麦笛の音のあるごとし」一四朗
「吹き捨てし麦笛流れ行きにけり」浩
「麦笛の頬ふるはして上手かな」ひろ女
「麦笛に麦笛答へゐたりけり」ゆたか
「麦笛や四十の恋の合図吹く」虚子
広辞苑から。
むぎ‐ぶえ【麦笛】
麦の茎で作り、笛のように吹き鳴らすもの。むぎわ
らぶえ。季・夏。聞書集「うなひ児がすさみにな
らす―の声に驚く夏の昼ぶし」
そこで一句。
「麦笛や牛が草食む道の端」よっち

麦の秋(むぎのあき)
秋は百穀成熟の時であるが、麦は夏日の下に黄熟す
る。それでかういふ名がある。まだ烈日といふ程で
もなく満日新緑のなかに麦が黄熟するのは美しい。
麦秋(むぎあき)。
「病人の駕も過けり麦の秋」蕪村
「麦秋や頬を地につけて風呂火吹く」泊月
「出戻りのをとこまさりや麦の秋」雨圃子
「畑まで泣いて来る子や麦の秋」美耶子
「雨二滴日に照りかへす麦の秋」虚子

麦刈(むぎかり)
昔の人は麦は立春から百二十日間前後に刈るべしと
教えた。梅雨前の仕事である。
「麦刈の一人を医者へとばせけり」紅々
「たくさんの麦刈鎌をとぎにけり」猿鳴子
「麦刈や汽車早けれど刈り進む」立子
「小百姓埃の如き麦を刈る」虚子
広辞苑から。
むぎ‐かり【麦刈り】
麦を刈りとること。季・夏
そこで一句。
「麦を刈る鎌の動きのリズムかな」よっち

麦打(むぎうち)
扱き落した麦を打つのである。稻は扱けばすぐ籾に
なるが、麦は穂のまゝ落ちるので、これを打つて実
を落すのである。竿や杵で打つ。麦埃がさかんだ。
「麦を打つほこりの先に聟舅」太祇
「麦ぬかの流れの末の小なべかな」一茶
「麦打や麦に躍れる影二つ」一転
「麦を打つ汗ふところに流れけり」花城
「麦打をはじめんとして休み居り」紅々
「から竿にまけてゐる娘や麦打てる」篁山
「麦打の打ちつゝ路をあけにけり」圭草
「麦埃掃きつゝ客を通しけり」俳小星
「沸きさめし茶釜の蓋や麦埃」たけし
「麦埃うすくなりつゝ又立てる」立子
「麦打の音に近づきゆきにけり」同
「軽々と浮き重なりぬ麦埃」虚子
広辞苑から。
むぎ‐うち【麦打ち】
麦の穂を殻竿(カラザオ)で打って実を落すこと。また、
殻竿。季・夏
そこで一句。
「麦打の父の眉毛や白くなり」よっち

麦飯(むぎめし)
大麦−主に裸麦−に米を混へて焚いた飯をいふので
あるが田舎では麦だけの麦飯を炊くところがある。
焚方も一度焚いてから水を差し、暫く休ませて二番
焚するのである。麦飯を夏とするのは麦秋と関係が
あり、夏季は脚気其他健康上から麦を用ゐる向きも
多い。
「麦飯に汁まだ冷えずありにけり」星光
「大櫃の麦飯に立てて杓子二本」一巻子
「麦飯に痩せもせぬなり古男」鬼城
「麦飯もよし稗飯もよし辞退せず」虚子


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