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三省堂 「新歳時記」 虚子編から
季語の資料として引用しています。

六月の季語

花菖蒲(はなしやうぶ)

6月ごろ、白・紫・赤・浅黄・絞など色々の花を咲か
せる。燕子花やあやめとよく似てゐるが、剣葉の中央
に隆起した脈が明かであればこの種である。種類が多
く二百種以上を算するといふ。東京都下の掘切菖蒲園
は古くから名高い。「野はなしやうぶ」といつて、山
野の乾地に自生してゐるのはこの種の原種で、赤紫色
の花。菖蒲園。菖蒲池。
「さる手元ふるひ見えけり花菖蒲」其角
「先の麩に浮く鯉うすし花菖蒲」若沙
「菖蒲田やわきて長柄の走花」花蓑
「門口を出水走る菖蒲かな」素十
「門口を山水走る菖蒲かな」風生
「まひまひの水の広さや花菖蒲」青邨
「花菖蒲映れる水の流れけり」たけし
「紫のはげて咲きゐる菖蒲かな」立子
「広々と紙の如しや白菖蒲」同
「菖蒲剪るや遠く浮きたる葉一つ」虚子
広辞苑から。
はな‐しょうぶ【花菖蒲】‥シヤウ‥
アヤメ科の多年草。ノハナショウブを原種として、わが
国で改良作出された園芸品種の総称。年々地下茎から茎
を出す。高さ約八○センチメートル。葉は剣状でとがり、平行
脈を有し、かつ、中肋脈がある。初夏の頃、白・桃・紫
色などの美花を茎頂につける。俗に「しょうぶ」という
が、節句に用いるショウブ(サトイモ科)とは別。季・夏
そこで一句。
「朝露をはじき返して花菖蒲」よっち

グラジオラス
舶来の花菖蒲である。夏、二・三尺くらゐの花茎をのば
して総状で横向の花を一杯つける。下から段々上の方へ
咲き登って行く。紅を本色として、鮮紅・淡紅・白・黄・
赤・斑など。切花として持ちがいゝ。唐菖蒲(たんしょ
うぶ)。
「いけかへてグラジオラスの真赤かな」松葉女
広辞苑から。
グラジオラス【gladiolus】
トウショウブ属(グラジオラス)の春植球根類。葉は剣状。
葉間から長い花軸を出して漏斗形の花を穂状につける。園
芸品種は数千に及ぶ。春咲と夏咲があり、花色は白・赤・
黄・紫など多数。また、広くはアヤメ科トウショウブ属植
物(その学名)で、地中海沿岸から南アフリカまでと、マダ
ガスカル・カナリア諸島などに約三百種が分布。オランダ
アヤメ。トウショウブ。
そこで一句。
「殖えすぎるグラジオラスや花ゆたか」よっち

あやめ

花期は六月頃、その紫色或は白色の花は水邊園池至
る所に見る事が出きる。水郷潮来は有名で、「あや
め咲くとはしほらしや」といふ俗謡もある。昔は菖
蒲を広くあやめと称した。「あやめ鬘」「あやめ酒」
「あやめ人形」「あやめ葺く」など皆菖蒲であつて、
このあやめではない。それ故特に花あやめとして区
別した。
「萬葉のあやめ咲きけり伊香保沼」奇峰
「後よりさしかけ傘やあやめ剪る」凡平
「ゴルフ場にあやめ花咲く澤のあり」水竹居
「アイリスの咲けばこひしきあやめかな」沼蘋女
「おのづから水の流れや花あやめ」立子
「一人立ち一人かゞめるあやめかな」泊月
「牧の駒あやめの沼の岸に来る」素逝
「なつかしきあやめの水の行方かな」虚子
広辞苑から。
あやめ【菖蒲】
@アヤメ科の多年草。やや乾燥した草原に群生。また、観
賞用に栽培もする。根茎は地下を這い分枝して繁殖し、毎
年、剣状の細長い葉数枚を直立。五〜六月頃花茎の頂端に
紫色または白色の花を開く。外花被片の基部には黄色と紫
色の網目があり、虎斑(トラフ)
と呼ばれる。ハナアヤメ。季・夏
Aショウブの古称。伊勢「―刈り君は沼にぞまどひける」
B襲(カサネ)の色目。表は青、裏は紅梅。(桃華蘂葉)
C蛇の異名。(蛇の姿を、菖蒲が蕾ツボミを持ってのびた茎
に見立てた、隠語的な性格の語。平安朝、後冷泉天皇時代
に、若い女性の間に流行し、院政期には死語化していた)
そこで一句。
「故郷のお城の堀や花あやめ」よっち

杜若(かきつばた)

杜若は紫色の花を初夏からつける。紫色の他に、紅
紫・淡紅・白・碧などの変種もある。三弁は垂れて
みて大きく、三弁は立っていて細い。燕子花(かき
つばた)とも書くのはこの花姿にどこか飛燕を思は
せるものがあるからであらう。水辺沼澤に多い。葉
も花も少し大形になつたやうなものである。参州八
橋の杜若は伊勢物語時分から名高い。
「かきつばた似たりた似たり水の影」芭蕉
「簾まけ雨に提げ来る杜若」其角
「冷汁はひえすましたり杜若」沾圃
「手のとどく水際うれしかきつばた」宇多都
「井のすゑに浅々清し杜若」半残
「今朝みれば白きも咲けリ杜若」蕪村
「人々の扇あたらし杜若」蓼太
「かきつばた魚過けむ葉の動き」几菫
「杜若下女も使はで家広し」月船
「降り出して明るくなりぬ杜若」青邨
「よりそひて静かなるかなかきつばた」虚子
広辞苑から。
かきつばた【杜若・燕子花】
(古くは清音)
@アヤメ科の多年草。池沼または湿地に生じ、高さ約
七○センチメートル。葉は広剣状、ハナショウブに似るが中肋
脈がない。初夏、花茎を出し、その先端に大形六弁の
花を開く。色は通常紫または白。大きな三枚の外花被
片には中央に一本の白線が入る。観賞用。貌佳草(カオヨ
グサ)。季・夏。万七「―衣に摺りつけ」
A襲(カサネ)の色目。山科流では、表は萌葱(モエギ)、裏は
紅梅。または、表は二藍(フタアイ)、裏は萌葱。
B紋所の名。カキツバタの葉と花とをとりあわせたもの。
そこで一句。
「読経の声で表へ杜若」よっち

著莪(しゃが)
あやめの属で陰地に生じ、葉は一・二尺くらゐ。花
は白くして紫暈があり、中心は黄色を呈する。三才
図会には「胡蝶風に花を過て飛舞揺蕩するが如し。
婦人之をとりて飾りとなす」とある。葉は深緑色、
冬もなほ枯れない。胡蝶花(しやが)
「杉山のうすき洩日や著莪畳」舟居
<那智にて>
「著莪の花上りとなりし御山かな」紅洋
「著莪咲いて巫女の衣干すたゞの家」子岑
「音もなき雨にぬれゐる著莪の花」茂葉
「打ち打ちて鏡の如し著莪の雨」喜見子
「紫の斑のしきめく著莪の花」虚子
広辞苑から。
しゃが【射干・著莪】
アヤメ科の常緑多年草。山地の陰地斜面などに群生する。
高さ三○〜六○センチメートル。地下に根茎があり、厚くて光
沢のある剣状の葉を叢生。春、花茎を出し、花はアヤメ
に似るが小形、白色で紫斑があり、中心は黄色。果実を
結ぶことなく、地下茎でふえる。漢名、胡蝶花。季・夏
そこで一句。
「塀の際顔を出してる著莪の花」よっち

短夜(みじかよ)
短い夏の夜である。夏至は最も短い。俳句に於ては、
日永は春、短夜は夏、夜長は秋、短日は冬。これには
それぞれ理由がある。先人の定めた所、決して偶然で
はない。
明易し(あけやすし)。夏の朝(なつのあさ)
「短夜や譯路の鈴の耳につく」芭蕉
「みじか夜や枕にちかき銀屏風」蕪村
「人音のやむ時夏の夜明かな」蓼太
「よる波の砂に濁りて夜みじかし」乙ニ
「短夜や大盗人の倉やぶり」愚哉
「短夜や乳足らぬ児のかたくなに」しづの女
「わが強力はどれ短夜の早立に」煤六
「明易き第一峰のお寺かな」虚子

競馬(けいば)
六月五日(往時は五月五日)、京都上加茂神社々前の
馬場に於て行ふ競馬の神事に起り、今は一般に競馬を
夏期の季題とする。賀茂競馬は夫々古式に依つて行は
れ、その第一日に馬の遅速を査閲するのを足揃へと称
してゐる。競べ馬。勝馬。負馬。
「くらべ馬おくれし一騎あはれなり」子規
「葉桜に幕はる賀茂の競馬かな」伯洲
「尾を振つて負馬騎手にしたがへり」鯨波
「天幕の上に海ある競馬かな」もとひ
「競べ馬埃の中に曲りけり」九冬
「競べ馬一騎遊びてはじまらず」虚子
広辞苑から。
けい‐ば【競馬】
馬場を設け、騎手が騎乗して二頭以上の馬を駆けさせ、
勝敗を決する競技。古式競馬は競べ馬などと称。近代
競馬はわが国では一八六二年(文久二)横浜で外国人に
より行われたのが始まり。現在は、競馬法により馬券
(勝馬投票券)を発行して、的中者には配当金を支払う
ギャンブル的娯楽となっている。
そこで一句。
「紙舞いし鼻差の勝負くらべ馬」よっち

初鰹(はつがつを)
江戸時代には、その夏はじめて漁獲された鰹を特に
珍重する風習があつた。鎌倉から来るものは特に有
名で、相州の初鰹といつて江戸ッ子に歓迎された。
初松魚(はつかつを)
「又越む佐渡の中山はつ松魚」芭蕉
「目に青葉山ほととぎすはつ鰹」素堂
「籠の目や潮こぼるるはつ鰹」葉捨
「初鰹観世太夫がはし居かな」蕪村
「江戸亡ぶ俎に在り初鰹」虚子
広辞苑から。
はつ‐がつお【初鰹】‥ガツヲ
陰暦四月頃、一番早くとれる走りのカツオ。美味で、
珍重される。初松魚。季・夏。「目には青葉山ほ
ととぎす―」(素堂)
そこで一句。
「店先に一本丸ごと初鰹」よっち

柿の花(かきのはな)
あまり人の着付かない地味な花である。梅雨の頃、
淡い黄色味を帯びた白い小さな花を開く。農家の垣
沿ひの溝などに落ちて散つてゐるのを見つけて、あ
らためてふり仰ぐことがある。
「渋柿の花ちる里と成にけり」蕪村
「木の下に柿の花ちる夕かな」同
「大柿の斯くぞあるべき落花かな」虚吼
「同じ日の毎日来る柿の花」夏山
「雨だれにうたれてかたし柿の花」

栗の花(くりのはな)
六月梅雨の頃、山路や農家の納屋のほとりなどに黄
白色の穂状の小花をふさふさとつけて特異の臭気を
放つものである。幹は三・四丈にも達し、葉は長楕
円形で「くぬぎ」の葉に似てゐる。雌雄花を異にし、
雄花は穂のやうに、雌花は普通三箇づつ雄花の穂の
下に生ずる、これが長じていがになる。
「鶏のくはへてふるや栗の花」半捨
「馬売りて久しき厩栗の花」繞石
「烙印しては道に出す木や栗の花」木人
「栗の花これより山は険阻かな」彦影
「杣渡る橋流れけり栗の花」雉子郎
「蓑の毛にからまりてをり栗の葉」萍村
「栗の花落ちて錆びたるごときかな」ゆり女
「塀に添うて渦巻く川や栗の花」不棲魚
「日高きに宿もとめ得つ栗の花」虚子
<月曜日、抜歯予定>
「歯の疼き小康得るや栗の花」よっち

山梔子の花(くちなしのはな)

黄はあまり大きくならない。葉は対生し楕円
形で光沢がある。夏、香気ある大形純白の六
弁の花を開く。まことにあざやかな白さを持
つた花である。
「くちなしの一片解けし馨かな」より江
「今朝咲きし山梔子の又白きこと」立子
「くちなしの日に日に花のよごれつつ」立子
「口なしの花はや文の褪せるごと」草田男

紫陽花(あぢさゐ)

五月雨の降り続く前栽に、大きなあぢさゐの花の毬
がうち叩かれてゐる様などはよく見かけることであ
らう。七変化などと異名されてゐるやうに、昼寝の
あとなどの眼にははつきりと色異に眺められる。
四葩(よひら)。
「紫陽花の大一輪となりにけり」嘯山
「紫陽花の下ゆく水や飛鳥川」蘆丸
「四葩切るや前髪わるゝ洗髪」久女
「紫陽花の大花ぶさを挿しにけり」絶海
「紫陽花のあさぎのまゝの月夜かな」花蓑
「紫陽花の毬現れし垣間かな」其昔
「紫陽花の毬の日に日に登校す」立子
「紫陽花の花に日を経る湯治かな」虚子
広辞苑から。
あじさい【紫陽花】アヂサ
ユキノシタ科の落葉低木。ガクアジサイの改良種とさ
れる。幹は根から叢生。高さ約一・五メートル。葉は広卵
形で対生。六〜七月頃、球状の集散花序に四枚の萼片
だけが発達した不実の花(装飾花)を多数つける。色は
青から赤紫で、変化するところから「七変化」の名も
ある。観賞用。花は解熱薬、葉は瘧(オコリ)の治療薬用。
また、広くはサワアジサイ・ガクアジサイなどの総称
で、ヨーロッパでの改良品種をセイヨウアジサイ・ハ
イドランジアなどと呼ぶ。あずさい。四片(ヨヒラ)。
季・夏。万二○「―の八重咲く如く」
そこで一句。
「紫陽花を触れて歩く小道かな」よっち

葵(あふひ)

立葵(たちあふひ)の事を一般にあふひと称してゐる。茎は直立
して枝が無く、七・八尺にもなる。葉は互生した円い心臓形で、
稜角があり葉面には皺がある。六月頃各葉腋に大形の花をつける。
色は紅・白・紫などで品のある花である。秋の彼岸頃に下種する
と、翌年から成長するが、花を見ることは稀で、多く三年くらゐ
経つて花を開く、はなあふひ・ぜにあふひ等といふ種類もある。
天竺葵といふのは種属を異にし、ふうろさう科で深紅色五弁の花
を長い花茎の頂きに群りつける。
「咲きのぼる梅雨の晴間の葵かな」成美
「物を干す人の葵の高さかな」梧月
「片腕に干衣かけて葵かな」不棲魚
「揚羽蝶また戻り来し葵かな」洛山人
「二本の競ひ伸びたる葵かな」昴志
「あとからの蝶美しや花葵」躑躅
「掃き寄せて高まる土や花葵」草千
「頂上に花の残れる葵かな」茂葉
「花葵仔犬の小屋をこゝに置く」立子
「ふるひ居る小さき蜘蛛や立葵」虚子
広辞苑から。
あおい【葵】アフヒ
@フユアオイ・タチアオイ・ゼニアオイ・トロロアオイなど、大
形の花をつけるアオイ科の草本の俗称。現代の俳諧では特にタチ
アオイをいうことが多い。季・夏。
万一六「這ふ葛(クズ)の後も逢はむと―花咲く」
Aフタバアオイのこと。
そこで一句。
「自転車をこいで海辺の花葵」よっち

十薬(じふやく)

十薬の花といふとすぐ十字形の白い花を思ふが、あ
れはほんたうは花でなく苞である。花はその中央に
多数集つて淡黄の穂のやうになつてゐる。が全体の
感じは花といふにふさはしい。初夏から長く咲き次
いでゐる。根・茎・葉共に薬用に供され、一種の臭
気を放つ。どくだみ。
「どくだみを打返しけり山畑」好文木
「十薬のゆれさゞめくや堀雫」泊雲
「黄昏て十薬の花ただ白し」夢香
「午後の日に十薬花を向けにけり」立子
「十薬や四つの花びらよごれざる」友次郎
「十薬の舟遅ければ匂ふなり」耿陽
「十薬も咲ける隅あり枳殻邸」虚子
広辞苑から。
じゅう‐やく【十薬】ジフ‥
ドクダミの別称、また、その生薬名。季・夏
そこで一句。
「十薬の根を堀り進み抜きにけり」よっち

溝浚へ(みぞさらへ)
田を植ゑつける前に、打ち捨ててあつた田の溝を浚
へ、灌漑を十分にする。又人家のまはりも蚊が出た
りきたなかつたりするるために夏浚へる。
「どぶ浚どんがめ蟲の溺れたり」右衛門
「顔そむけ出づる内儀や溝浚へ」
広辞苑から。
さらい【浚い・渫い】サラヒ
よけいな物をすっかり取り除くこと。掃除。「どぶ―」
そこで一句。
「飛び跳ねる泥顔に来てどぶ浚い」よっち
「泥の中魚さがすや溝浚へ」よっち

梅雨(つゆ)
六月十二日頃から凡そ三十日間の淫雨期をいふ。温
暖湿潤な東風季候風中の水蒸気が凝縮する等から霖
雨となり陰鬱な天気が続くのである。音読して梅雨
(ばいう)ともいひ、ジクジクして何もかも黴が生
えるといふ意味ともいふ。梅天(ばいてん)・梅雨
曇(つゆぐもり)・梅雨空は暗雲が低くたれ込めた
空である。梅雨頃冷えるのを梅雨寒(つゆさむ)と
いふ。
「正直に梅雨雷の一つかな」一茶
「梅天に鬱然たりや樟榎」月斗
「長梅雨や濁ることなき筧水」柿巷
「梅雨の蝿物にもつかで飛びにけり」たけし
「家一つ沈むばかりや梅雨の沼」木國
「馬同士顔ぢつと寄せ梅雨の塀」同
「梅雨土間や大工ごとして子百姓」常山
「わらうてはをられずなりぬ梅雨の漏」曉水
「めりめりと二階の人や梅雨の宿」王城
「妻よべば鶏来るや梅雨の宿」菖蒲園
「訪へば子沢山なり梅雨の宿」立子
「離室の人思へば遠き梅雨かな」かな女
「傾きて太し梅雨の手水鉢」虚子
広辞苑から。
つゆ【梅雨・黴雨】
六月(陰暦では五月)頃降りつづく長雨。また、その
雨期。さみだれ。ばいう。季・夏。
「―に入る」「―が明ける」
そこで一句。
「散歩待つ犬の顔見る梅雨空」よっち

五月雨(さみだれ)
梅雨期の霖雨である。陰暦五月に降るのでこの名が
ある。さは五月の略、みだれは水垂れかと。
五月雨(さつきあめ)。さみだるる。
「五月雨にかくれぬものやせたの橋」芭蕉
「五月雨に鳰の浮巣を見に行かん」同
「五月雨のふり残してや光堂」同
「五月雨をあつめて早し最上川」同
「さみだれや色紙へぎたる壁の跡」同
「さみだれの雲吹きおとせ大井川」同
<奥州名取りの郡に入り中将實方の塚はいずくに
やと尋侍れば道より一里半ばかり左りの方笠島と
いふ処に有とをしゆ ふりつゞきたる五月雨いと
わりなく打過るに>
「笠島やいづこ五月のぬかり雨」同
「さみだれに見えずなりたる徑かな」蕪村
「五月雨や滄海を衝濁水」同
「五月雨や掘たのもしき砦かな」同
「さみだれや大河を前に家二軒」同
「さみだれや佛の花を捨に出る」同
「うきくさも沈むばかりよ五月雨」同
「帋燭して廊下過るやさつき雨」同
「さみだれや肩など叩く火吹竹」一茶
「蘭の花の上漕ぐ舟や五月雨」虚子
広辞苑から。
さ‐みだれ【五月雨】
(サはサツキ(五月)のサに同じ、ミダレは水垂ミダレ
の意という)
@陰暦五月頃に降る長雨。また、その時期。つゆ。
梅雨。さつきあめ。季・夏。古今夏「―に物思
ひをれば」。奥の細道「―をあつめて早し最上川」
A(@のように) 途切れがちに繰り返すこと。「―
式」「―スト」
そこで一句。
「五月雨や頂隠す摩天楼」よっち

五月闇(さつきやみ)
五月雨の頃の暗さをいふ。此の頃の夜はあやめも分
かぬまで漆黒の闇である。昼間の暗いのもいふ。
「道曲るはこゝらあたりや五月闇」軒石
「桑畑の五月闇とて送らるゝ」紅酔
「打ち返す浪の白さや五月闇」松葉
「浜名湖や五月闇なるいさり舟」野人
「五月闇より石神井の流れかな」」茅舎
広辞苑から。
さつき‐やみ【五月闇】
@さみだれの降る頃の夜が暗いこと。また、そのくら
やみ。季・夏。後拾遺雑「―ここひの森の時鳥」
A暗いところから、「くら」にかかる。拾遺夏「―倉
梯(クラハシ)山の時鳥」
そこで一句。
「お化けさへ正体見えず五月闇」よっち
「巨樹下の五月闇かな足早に」よっち

黴(かび)
梅雨期は湿気は特に黴を生じ易く、甚しいのは青黴が生え
る。手垢のついたもの等殊に黴易く、一寸油断をすると、
食物・器具・衣服・書籍、なんでも損(いた)められてし
まふ。手入の悪い着物等、黴は見ゆる程でないが黴臭いこ
とがある。梅雨上りの白日下にはよく黴びたものが干され
る。黴の香。黴の宿。黴げむり。
「黴煙立てゝぞ黴の失せにける」たけし
「筆硯を襲ひし黴のありにけり」同
「黴の宿雨だれ瀧の如くなり」萩生
「きらりきらり時計玉振る黴の宿」静雲
「あるき茶のなかなかうれし黴の宿」凡々
「末の子がかびと言葉をつかふほど」汀女
「ラヂオ今ワインガルトナー黴の宿」立子
「鏡臺のあるじなければ黴びにけり」竹坡
「黴の坊僧の起居のつゝがなく」句一歩
「優曇華もつきて黴びけり古今集」兎月
「雨季あけや地面の黴の大模様」念腹
「つゞけゐる旅に黴ゐし舞袴」ゝ石
「点されし黴蝋燭や詣でけり」七三郎
「信仰につまづき病める黴聖書」あさし
「厚板の錦の黴やつまはじき」虚子
広辞苑から。
かび【黴】
@菌類のうちで、きのこを生じないものの総称。主に糸状
菌をいう。アオカビ・クロカビ・ケカビなど。季・夏
A飲食物・衣服・器具などの表面に生ずる微生物の集落の俗称。
そこで一句。
「押入れの脱いだ下着の黴の宿」よっち

蝸牛(かたつぶり)
夏、雨が降れば盛んに出て来る。梅雨頃が殊に多い
やうである。「でんでんむしむし、角だせやり出せ」
とうたはれてゐるやうに、大小二つの肉角を持つて
をつて、その大きな方の頭に眼がある。それで、歩
き始める時には先づ以てこの角を伸ばす。角の屈伸
は自在であるが、歩き方は極めて遅い。食用になる
蝸牛もゐる。
かたつむり。ででむし。でんでんむし。
「かたつぶり角ふりわけよ須磨明石」芭蕉
「蝸牛のかくれ顔なる葉うらかな」蕪村
「主客閑話ででむし竹を上るなり」虚子

蟇(ひきがへる)
大きな蛙である。暗褐色、大きな疣でぷくぷくして甚だ
醜い。夕方になるとよく樹陰・物影などから這い出して
来る。図体は大きいがのろくて、ゐざる格好が如何にも
グロテスクである。蚊などを捕つて食べてゐる。更に大
きなのが蝦蟇(がま)である。「術家取り用ゐて霧を起
し、雨を祈り、兵を辟け、縛を解く」とある。蟾(ひき)
「這出よかひ屋が下の蟾の声」芭蕉
「ひとつ葉を踏み撓めけり蟇」都雀
「夕蟇を杖にかけたる散歩かな」たけし
「芥火や向きなほりたる蟇」念腹
「蟇の眼を何をひたすら見得たるか」としを
「尻立犬に蟇向きかへて去るつもり」静雲
「蟇のゐて蚊を吸ひ寄する空虚かな」鬼城
「枝折戸の裾重く蟇を押しやれり」露山
「蟇ないて唐招提寺春いづこ」秋櫻子
「蟾蜍長子家去る由もなし」草田男
「大蟇先に在り小蟇後(しり)へに高歩み」虚子
広辞苑から。
ひき‐がえる【蟇・蟾蜍】‥ガヘル
カエルの一種。体は肥大し、四肢は短い。背面は黄褐色
または黒褐色、腹面は灰白色で、黒色の雲状紋が多い。
大きな耳腺をもち、また皮膚、特に背面には多数の疣(イ
ボ)があり、白い有毒粘液を分泌。動作は鈍く、夜出て、
舌で昆虫を捕食。冬は土中で冬眠し、早春現れて、池や
溝に寒天質で細長い紐状の卵塊を産み、再び土中に入っ
て春眠、初夏に再び出てくる。日本各地に分布。ヒキ。
ガマ。ガマガエル。イボガエル。季・夏。
色葉字類抄「蟾蜍、ヒキカヘル」
そこで一句。
「草陰に目が在りそこに蟇蛙」よっち

雨蛙(あまがへる)
夏の日、木の枝や繁つた葉の間に、緑色の蛙がとま
つてゐることがある。よく注意して見ないと、周囲
の色と同じ色をしてゐるので判らない。指の先に吸
盤があつて物に吸ひつく。雨が降りさうになると樹
上で盛んにぎやつぎやつぎやつぎやつと鳴く。産卵
するのは五・六月頃。雨蛙を普通枝蛙(えだかはづ)
とも青蛙(あをがへる)とも呼んでゐるが、動物学
上では「青蛙」といふのは別にある。
「合歓に居て樗に啼くや雨蛙」花酔
「青蛙おのれもペンキぬりたてか」我鬼
「枝蛙痩腹捻(よ)れてむかふ向き」はじめ
「と見る目に啼きゐてやさし枝蛙」泥中
「青蛙こやつ中々泳ぐなり」みずほ
「葉辷りし片足長し雨蛙」不棲魚
「幔幕に鳴いてやめたる雨蛙」
「やや枯れし秣(まぐさ)にとぶや青蛙」虚子
広辞苑から。
あま‐がえる【雨蛙】‥ガヘル
アマガエル科の一種。四肢の各指端に吸盤をもち樹上
に登る。体は緑色または灰色、鼻から目・耳にかけて
と体側とに黒色斑紋がある。周囲の状態により体色が
変化。わが国いたる所にすむ。また、広くはアマガエ
ル科・ヒメアマガエル科のカエルの総称で、多くは熱
帯産。大形で美しいものもある。ニホンアマガエル。
あまごいむし。雨蛤。季・夏。〈新撰字鏡八〉
そこで一句。
「葉の上のだる磨さんかな雨蛙」よっち

桑の実(くはのみ)
苺に似てゐるが、熟すると黒くなる。田舎の児童な
どは喜んで食べる。
「桑の実はたべもし道を急ぎけり」弦月
「桑の実に片つま染る娘かな」一風
「桑の実や二つ三つ食ひて甘かつし」鬼城
「日のぬくみある桑の実の甘さかな」鳴子
「桑の実の落ちてにじみぬ石の上」漾人
「桑の実や淡く冷たき雨の味」虚吼
「桑の実のしみ新しき桑籠かな」風生
「垂れつどふ漆びかりの実桑かな」青畝
「桑の実を口のうつろに落す音」虚子
広辞苑から。
くわ【桑】クハ
クワ科の落葉高木クワ類の総称。ヤマグワおよびその
栽培品種がもっとも普通だが、別種のハチジョウグワ、
中国産の魯桑(ロソウ)なども栽培される。自生では高さ一
○メートル以上に及ぶものがあるが、年々、養蚕のために
刈りとるから長大なものは少ない。樹皮は淡褐色、葉
は深い切れ込みのあるものと全縁のものとある。春、
淡黄緑色の単性花を穂状に綴る。雌雄異株、稀に同株。
花後、小さい実を結び、熟すれば紫黒色を呈し、味は
甘い。材は諸種の用に供し、特に自生樹は硬く、工芸
用材として珍重。樹皮の繊維は製紙の原料。殊に葉は
養蚕用として重要。四木の一。季・春。万七「母が
其の業(ナリ)の―すらに」
そこで一句。
「枝引いて桑の実食べた指黒し」よっち

枇杷(びは)
白い花が落ちて、小さな毛ば立つた粒が次第に太り、
黄熟するともう仲夏である。枇杷は暖地を好む。太
平洋岸に沿つた暖い土地々々に、枇杷の木が林をな
してゐるのを見かけることがある。
「詩経読む前庭の枇杷黄ばみけり」格堂
「枇杷を食ふ腕あらはに病婦かな」爽雨
「住みなれて今年は枇杷の生るらしき」七三郎
「町深く入り来し帆あり枇杷初荷」独楽
「尼寺や甚だ淡き枇杷の味」ヘイ魚
「枇杷うれてどこやらせはし島少女」佐世子
「高僧も爺でおはしぬ枇杷を食(め)す」虚子
広辞苑から。
び‐わ【枇杷】ビハ
バラ科の常緑高木。果樹として栽培。西日本に野生
種がある。高さ約一○メートルに達し、葉は長楕円形、
厚くて堅く、下面には淡褐色の毛を密生。一一月頃、
帯黄白色の佳香ある小花を開き、翌年初夏、果実を
結ぶ。果実は黄色・黄白色など、食用。葉は薬用、
材は木刀などにする。ひわ。季・夏
そこで一句。
「枇杷食べて種がごろりと出て来たり」よっち

燕の子(つばめのこ)
燕は夏、雛を育てる。巣にあつて餌を待つ子燕、飛
び方を習いはじめた子燕、敏捷にこれらの世話をす
る親燕、これらは梅雨期前後のながめである。
「紺の香に染まりて育つ燕の子」禾人
「燕子の啼けばさみしき留守居かな」ゆや女
「親を待つ燕おとなし酒を売る」小簑女
「商も栄え燕の子も育つ」繁子

早苗(さなへ)
苗代から田に移し植ゑる頃の稲の苗をいふ。玉苗(た
まなへ)は、苗の美称。早苗取(さなへとり)。早苗
束(さなへたば)。余り苗。捨苗。苗運(なへはこび)
苗配(なへくばり)。早苗舟。早苗籠(さなへかご)。
苗籠(なへかご)。
「早苗とる手もとや昔忍ぶずり」芭蕉
「手ばなせば夕風やどる早苗かな」同
「早苗とる手元に落ちて笠雫」泊雲
「うつ伏して橋をくぐりぬ早苗舟」審雨
「投げ苗のとどかず歩み寄りにけり」八郎
「畦に寄る波ひたひたと早苗取」露子
「早苗とる水うらうらと笠のうち」虚子

蛍(ほたる)
火垂(ほたり)或は火照(ほてり)の轉であらうといはれて
ゐるが、万葉以前にはまだ「蛍」の文字を見ない。多分他の
名前で呼ばれてゐたものであらう。岸辺の青蘆の蛍や、飛び
交ふ蛍が水に映るのもよい。源氏蛍は大きく、平家蛍は小さ
い。初蛍(はつぼたる)。蛍火(ほたるび)。飛ぶ蛍。蛍合
戦。蛍売。
「昼間見れば首筋赤きほたるかな」芭蕉
「草の葉を落るより飛ぶ蛍かな」同
 <膳所曲水之楼にて>
「蛍火や吹きとばされて鳰のやみ」去来
「刈草の馬屋に光る蛍かな」一髪
「もつれつゝ水無瀬をのぼる蛍かな」樗良
 <夕殿蛍飛思悄然>
「あるじなき几帳にとまる蛍かな」几菫
「剣うつ水により来るほたるかな」管鳥
「草うてば蛍亂るゝ古江かな」闌更
「飛蛍舟に扇を揚にけり」同
「田の水を庭にひかせて蛍かな」維駒
「雨の夜の葉裏を伝う蛍かな」吟江
「吹落てしばし水行蛍かな」同
「浮草と共に流るゝ蛍かな」同
「大蛍ゆらりゆらりと通りけり」一茶
「流れ来しがツトたち直り蛍かな」泊雲
「蛍火の柳離れてゆるやかに」虚子
広辞苑から。
ほたる【蛍】
@ホタル科の甲虫の総称。体は軟弱で細長く、背面は扁平。
触角は糸状。熱帯を中心に、世界に約二千種が分布。その
うち腹端に発光器をもち、夜間、青白い光を点滅するもの
を指すことが多い。幼虫は水生で肉食、発光するものがあ
る。わが国にはゲンジボタル・ヘイケボタル・ヒメボタル
などの種類があり、特に前二者は古来蛍狩の対象となり、
飼養もされる。ほたろ。なつむし。くさのむし。
季・夏。〈和名抄一九〉
A源氏物語の巻名。
そこで一句。
「蛍火の一万年の光かな」よっち
細菌学の先生の話によると、あまりに清潔すぎると逆に病原
菌に対する抵抗がなくなり病気になるそうです。そこで、先
生は一万年前の生活に思いを馳せて、生活をすると、体も心
も健康になるそうです・・・
一万年前にもどり、草花を見て感動し、蛍をやはり見て感動
する。こんな光景を詠みました。

あめんぼう
五分くらゐの細長い虫で、夏になると池沼・
小川などの水面に、六本の細く長い脚で軽く
体を支へて、スイスイと走つてゐる。陸上を
飛ぶことも出来る。その臭いが飴のやうだと
いふのでこの名がある。水黽(かはぐも)と
いふのが学名である。地方によつてはこの虫
を水馬(みづすまし)といつてゐるため「ま
いまい」と混同し易く、俳句にも「あめんぼ
う」を「みづすまし」と詠まれたものが多い。
「岩陰を出でて日和の水馬」フクスケ
「水馬風吹くままに流れをリ」立子
「水汲の去ればよりくる水馬」青鬼灯
「魚鼇居る水を踏まへて水馬」虚子

目高(めだか)
体は小さいが、目は大きくて飛び出してゐる。人家
に近い溝川等に多い。緋目高。
「緋目高のつゝいてゐるよ蓮の茎」石鼎
「泛子よけて目高の列の通りけり」都穂
「睡蓮の朽葉の上の目高かな」立子
「緋目高の小さなるほどせはしなや」同
「緋目高の一すぢの藻にとゞまれり」仰子
広辞苑から。
め‐だか【目高】
@目が高いこと。鑑識力がすぐれていること。また、
そういう人。傾城禁短気「手褒めながら、わしも―じ
や」
Aメダカ科の硬骨魚。体長は約三センチメートルで日本の淡水
魚中最小。背部は淡褐色、腹部は淡色。背中線に暗色
縦線がある。目は大きい。東洋に広く分布し、池・溝
などにすむ。観賞用とされるのはヒメダカ・シロメダ
カなどの変種。地方により、談議坊(ダンギボウ)など種
々の呼び名がある。季・夏。〈日葡〉
そこで一句。
「この川に目高を見つけ眺め居り」よっち
「目高の子いつか離れて他の川へ」よっち

田草取(たぐさとり)
田植後生じた田の草取をいふ。一番草・二番草・三
番草と三回くらゐ行ふ。
「物いはぬ夫婦なりけり田草取」蓼太
「田草人寄りうごめくや合歓の下」土音
「袖なしや田草取る身の構へなる」同
「をりをりの蓮の匂や田草取る」霞村
「へだたりて二人ゐにけり田草取」未曾二
「泣いて来し子に皆たちぬ田草取」満城
「うちたてば利根の風あり田草取」虚子
広辞苑から。
たぐさ‐とり【田草取り】
田草を取り除くこと。通例、田植えの一〜二週間後か
ら、一番草(グサ)、二番草、三番草と三回行う。たの
くさとり。季・夏
そこで一句。
「腰痛に背伸びしてをり田草取」よっち

鮎(あゆ)
鮎は春生れて夏大きくなり、秋衰へて冬は死ぬる、それ
で「年魚」といはれる。若鮎は春、落鮎は秋、単に鮎と
いつて夏季とする。銀白に蒼を帯び、鱗は甚だ小さくて
無いやうに見える。夏季の川魚の王である。
鮎狩(あゆがり)。鮎釣。鮎掛(あゆかけ)。鮎の宿。
「鮎くれてよらで過行夜半の門」蕪村
「鮎掛の舟寄りあへる早瀬かな」鷺石
「鮎つるや渦移りゆく巌の裾」凡平
「ぬれ草履ぬぎならべたり鮎の宿」村家
「酒旗高し高野の麓鮎の里」虚子

鵜飼(うかひ)
鵜を使用し主として鮎を捕るのをいふ。岐阜県の長
良川では、毎年五月十一日が鵜飼始めであるが十月
中旬頃まで毎夜鵜船が出る。鵜船は舳に篝火を焚く。
これを鵜飼火・鵜篝(うかがり)・鵜松明といひ、
水に映つて頗る美観を呈する。鵜匠(うしやう)は
今尚古風な鳥帽子・装束を纏ひ、「ホウホウ」と声
をあげて鵜をはげましながら遣ふのを常とする。荒
鵜はきおいたつた鵜。鵜疲(つかれう)は働き疲れ
た鵜である。鵜遣(うつかひ)。鵜籠。鵜縄。鵜川。
「おもしろうてやがてかなしき鵜舟かな」芭蕉
「しののめや鵜をのがれたる魚浅し」蕪村
「ほうほうと呼ぶ声若き鵜匠かな」蓼笏
「疲鵜の鵜匠見あげて鳴くことよ」素逝
「鵜の宿の庭ひろびろと葵かな」虚子

夜振(よぶり)
夜、松明やカンテラを灯して魚を取ることで、河川・
水田・沼地・海辺等、所により地方に依つてその方
法や漁具は違つてゐる。
夜振火(よぶりび)。
「静かにも近づく火あり夜振かな」枴童
「山川や火に面赤き夜振人」呂杣
「若鮠(はや)のそよと逃げたる夜振かな」泊月
「夜振火をもつに小才の利く子かな」黄昏
「橋の上夜振の獲物分ちけり」虚子

青蘆(あをあし)

(写真の葦は秋の頃で穂が出ている。)
夏の蘆をいふ。水辺に自生し七・八尺にも達する。
青々と繁つてゐるのは潔い感じである。蘆茂る。
「茂りあひて江の水細き蘆間かな」紹巴
「青蘆に夕波かくれゆきにけり」未曾二
「青蘆の上にたちたる番屋かな」泊月
「青蘆や月の出しほの鱗波」みづほ
「青蘆も葭あらずに吹きなびく」虚子

葭切(よしきり)

色も形も鶯に似てゐるが、鶯よりも少し大きい。夏
の沼沢・河辺の葦の中に群棲し、うるさく鳴き囀る。
それで行行子(ぎょうぎょうし)とか葭原雀(よし
はらすずめ)とかいはれる。葭の茎を割いて、ずゐ
にゐる虫を捕食するので、葭切の名をもらつたもの
ださうである。
「よしきりや漸暮れて須磨の浦」蓼太
「石山の手にとる如し行々子」花扇
「葭切や濁りてはやき淀の水」黒葡萄
「あらはれて又啼き沈む行々子」旭川
「川船のギイとまがるやよし雀」虚子

翡翠(かはせみ)

背は鮮明な碧空色をしてゐて美しい。緑陰清潭に臨
んで、よく杭や巌の上に居止してゐる。水面の魚影
をねらつてゐるのである。飛翔つと早い。ひすゐ。
「御庭池川せみ去つて鷺来る」子規
「はつきりと翡翠色にとびにけり」草田男
「翡翠が掠めし水のみだれのみ」汀女
「翡翠去つて人舟繋ぐ杭ぜかな」虚子

蝿(はへ)
蝿には随分色々な種類があり数も多いが、愛されるもの
は一匹もゐない。蝿を打つ。
「うき人の旅にも習へ木曾の蝿」芭蕉
<病中即時>
「眠らんとす汝静に蝿を打て」子規
「魂を入れて蝿這ふやまた打てリ」花因
「蝿の声もつれ聞ゆる背中かな」指月城
「止りたる蝿追ふことも只ねむし」虚子

蝿叩(はへたたき)
棕櫚の葉で作つたもの、厚紙に竹を柄としたもの、
金網に針金を柄としたものなどがある。蝿打。
「畳より針をどり出ぬ蝿たゝき」俳小星
「紙に置く假の鎮や蝿叩」たけし
「繕ふや畳に長き蝿叩」躑躅
「蝿打のありて留守なる庵かな」櫻魚
「もとの座にもどりて座右の蝿叩」武見
「新聞を畳めばありぬ蝿叩」かず江
「大和尚蝿打へ手をのばしけり」静雲
「蝿打を持つて出て来る主かな」虚子
広辞苑から。
はえ‐たたき【蠅叩き】ハヘ‥
蠅を打ち殺すのに用いる道具。はえうち。はえとり。
季・夏
そこで一句。
「無造作にそして無駄ない蝿叩」よっち
「蝿叩どこにいつたと聞きまわり」よっち

蜘蛛(くも)
蜘蛛の中にも、大きな圍を張つてその真中に悠然と
構へてゐるもの、糸でぶら下つて渡り歩くもの、草
原等に漏斗状の巣をつくり、その奥に隠れてゐるも
の、大地の穴に管のやうに巣をつくつて住んでゐる
もの、夜間壁や天上を匐ふ奴、よく喧嘩をするもの
等色々あつて、それ等蜘蛛の形も亦様々である。
「己が圍をゆすりて蜘蛛のいきどほり」旭川
「蜀のかげに蜘蛛失ひぬ風雨の夜」湖雨
「蜘蛛の子や小さき乍らにうす緑」冷石
「大蜘蛛のあらあらしくも圍つくろひ」念腹
「蜘蛛逃げてとどまるところありにけり」虚子

油蟲(あぶらむし)
室内を這ひまはつて、食器類や塗物、書籍の表紙など
をなめる。黄褐色をした一寸くらゐのいやな蟲で、そ
の色や臭に油を思はせるものがあるのであろう。「油
蟲を避くるの法、青よもぎの茎葉を用ゐて釜の間にさ
さば則絶ゆ」と三才図会にあるが、これくらゐでは中
々絶えさうにも思へない。学名は「ごきぶり」である。
「油蟲ますます髭を曲げ舐むる」玄潮子
「手伝ひに来ておどろけり油蟲」今夜
「たゝかれてゆがみ走りや油蟲」虹橋
「灯をかざす柱のすきの油蟲」蓑子
「御所焼けものがれし家や油蟲」雄月
「油蟲廚障子はすぐ汚れ」虚子
広辞苑から。
あぶら‐むし【油虫】
@カメムシ目(半翅ハンシ類)アブラムシ科の昆虫の総称。
一般に小形で、腹面に長い口吻をもち、農作物などに
寄生、汁液を吸収して発育を害し、種類によりウイル
スを媒介。夏、雌の単為生殖で盛んに増殖し、秋に雌
雄を生じ、多数の卵を産む。多くは腹端から蜜を分泌
するので、蟻が好んで保護する。アリマキ。
Aゴキブリの別称。油に浸ったような光沢があるので
いう。季・夏
Bアブラコウモリの別称。
C他人につきまとって飲食・遊興・見物などをただで
する者をあざけっていう。鶉衣「―といふは、虫にあ
りてにくまれず、人にありて嫌はる」
D遊里で、ひやかしの客をいう。
そこで一句。
「油蟲久しぶりかなこんにちは」よっち

蟻(あり)
地上で我々の眼に見るものは働蟻だけで、炎天下の地上を
冬のためにに食を求めて奔走してゐるのである。女王と雄
蟻は朽木や地中の巣の中にあつて出て来ない。刺すのもゐ
る。蜿蜒と縦隊の列をつくつて渡ることがある。蟻の道と
いふ。蝉の骸などを一匹の蟻に示してそこに置くと、その
蟻が大群を卒ゐて運搬に来る。営巣のために地を掘つて塚
をつくることもある。蟻の塔。
「塵取にすこしかゝりて蟻の道」櫻坡子
「行列をそれて何かと蟻の王」落魄居
「蟻の道かまはず掃いてしまひけり」水華
「足跡を蟻うろたへてわたりけり」立子
「走り行く蟻一つあり蟻の道」萬喜子
「七盛の墓の間の蟻の道」乞合
「雨やんでおのづからなる蟻の道」狸案
「風の葉を亙りて蟻の彷へる」千止
「蟻の道昨日のごとくありしかな」奈王
「大蟻の吸ひついてゐる桑刈株」泊雲
「大蟻の草躍越え這ひにけり」虚子
広辞苑から。
あり【蟻】
@ハチ目(膜翅類)アリ科の昆虫の総称。体長五〜一五ミリメー
トル。体色は黒または赤褐色。胸腹間に甚だしいくびれがあ
る。触角は「く」の字形に屈曲。地中または朽木の中に巣
をつくる。雌である女王と、雄と働き蟻(不完全な雌)とが
あり、多数で社会生活を営む。種類が多い。新しく羽化し
た女王と雄には翅があり(羽蟻)、交尾後に翅を失う。
季・夏。〈新撰字鏡八〉
A〔建〕仕口の一種。木材の端を鳩尾形、すなわち先で広
がった形にしたもの。
そこで一句。
「蟻の道この先どこと尋ねけり」よっち
「蟻の道屈み見る子に雨降りし」よっち

青嵐(あをあらし)
「あをあらし」とよむ。夏、緑の林や草原等を吹きわ
たる風である。
「青嵐瀑はたゞ落ちに落るかな」保吉
「鳶の巣の藁吹き散るや青嵐」吟江
「神前の鈴の空音や青嵐」鹿郎
「白鷺の海へ吹かるゝ青嵐」呑仙
「葦の根の逆さ流れや青嵐」九品太
「青嵐に花もつれたる太藺かな」元
「青嵐早苗凹めて消えにけり」播水
「傾けて新樹を吹けり青嵐」温亭
「下山して坂本縄手青嵐」夢六郎
「高楼や昼も灯す青嵐」虚子
広辞苑から。
あお‐あらし【青嵐】アヲ‥
青葉の茂るころに吹くやや強い風。せいらん。季・夏
そこで一句。
「青嵐田の苗ゆらし波となし」よっち

時鳥(ほとときす)
春の鶯、夏の時鳥。古来、詩歌の寵を一身に集めて
ゐる。伝説も多く異名も多い。「ほととぎす」と鳴
くといひ、「本尊掛けたか」と聞き、「てつぺんか
けたか」と聞き、「田を作らばはやつくれ、時すぎ
ぬればものらず」などとも聞かれてゐる。その声苦
叫、超俗、非常の気迫を示してゐる。「鶯は玉を転
ずるが如く、時鳥は帛を裂くが如し」と古人はいつ
た。夜も啼く。秋、南方に去る。子規。杜鵑。蜀魂。
杜宇。不如帰。山時鳥。
「ほととぎすいかに鬼神も慥かにきけ」宋因
<旅寓>
「京に居て京なつかしや時鳥」芭蕉
「ほととぎす啼や五尺のあやめ草」同
「子規大竹薮をもる月夜」同
「野を横に馬引むけよほととぎす」同
「子規一二の橋の夜明かな」其角
「時鳥なくや湖水のさゝ濁り」丈草
「山道や壷荷にひゞく時鳥」同
「子規瀧より上のわたりかな」同
<木曽川のほとりにて>
「ながれ木や篝火の上の不如帰」同
「山々は萌黄浅黄やほととぎす」子規
「淀川の大三日月や時鳥」同
「牧草の丈なすまゝにほととぎす」秋櫻子
「飛騨の生まれ名はとうといふほととぎす」虚子
広辞苑から。
ほととぎす【杜鵑・霍公鳥・時鳥・子規・杜宇・不
如帰・沓手鳥・蜀魂】
(鳴き声による名か。スは鳥を表す接尾語)
@カッコウ目カッコウ科の鳥。カッコウに酷似する
が小形。山地の樹林にすみ、自らは巣を作らず、ウ
グイスなどの巣に産卵し、抱卵・育雛を委ねる。鳴
き声は極めて顕著で「てっぺんかけたか」「ほっち
ょんかけたか」などと聞え、昼夜ともに鳴く。夏鳥。
古来、日本の文学、特に和歌に現れ、あやなしどり
・くつてどり・うづきどり・しでのたおさ・たまむ
かえどり・夕影鳥・夜直鳥(ヨタダドリ)などの名があ
る。季・夏。万一八
「暁に名告り鳴くなる―」
A{枕}(飛ぶ意から) 「とばた」(地名)にかかる。
そこで一句。
「久方の晴れ間の月やほととぎす」よっち

昼顔(ひるがほ)
葎や木に這ひ縋りながら咲く、朝顔に似た悄々小さ
な淡紅色の花で、日中に開き夕べに萎むところから、
朝顔に対照して斯くいはれたのであらう。
「豆腐屋が来る昼顔が咲きにけり」一茶
「昼顔に猫捨てられて泣きにけり」鬼城
「昼顔の捲つく草もなかりけり」朱城
「ひるがほや川となり又みちとなる」蚊杖
「昼顔の萱の葉ゆれにともなへり」蘭女
「道わるし昼顔泥の上に咲き」孝子
「ひる顔や利根一曲り一郡」普羅
「刈麦に昼顔のりて咲きにけり」夏山
「昼顔の葎に沈み咲きも咲き」立子
「昼顔の花もとび散る籬を刈る」虚子
広辞苑から。
ひる‐がお【昼顔】‥ガホ
ヒルガオ科の蔓性多年草。原野に自生。茎は他物に
からむ。夏、アサガオに似て小形の淡紅色の漏斗状
花が昼開いて夕刻しぼむ。全体を乾して利尿剤とし、
若芽は食用。類似のコヒルガオを指すこともある。
漢名、旋花・鼓子花。季・夏。〈書言字考〉
そこで一句。
「昼顔や船の帆を張る掛け声と」よっち

浜昼顔(はまひるがほ)
海浜の砂地に生える草で、茎は砂上を這い、葉は厚
ひ心臓形で、昼顔と同じやうな花である。何もない
砂浜に生い茂つて浜風に吹かれつゝ咲いてゐるのは
いゝ。
「昼顔や翠濤老と濱に出ず」虚子









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