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安全講話メモ
平成14年1月15日
航空安全管理隊



なぜ彼らはそうしたのか?
〜航空事故に関わる意思決定とその対策〜

航空安全管理隊


航空大事故の
7〜8割
は人的要因と関わっている

この人的要因が関係した事故の調査結果への感想
何でそんなことしたんだ?、
一体何考えてたんだ?、
こいつ馬鹿じゃねーの、というような声

なぜそのような判断を下したのか?
   ↓
判断=意思決定

意思決定訓練の重要性



意思決定に訓練は必要?
意思決定の能力は通常の訓練を継続し、経験を積めば自然と向上する、と考えている人がいます
しかしながら、意思決定は、生まれた瞬間から無数に行われています
→誰もが意思決定のプロか?年寄りは意思決定のミスはしない?
→そうでもありません

パイロットミスによる航空事故(FAA調べ)
意思決定のミスが原因の事故(死亡事故51.6%、非死亡事故35.1%)
このデータはあくまでパイロットに関わるものであり、管理者の
エラーも含めるとそれ以上になるとかんがえられます
意思決定について知る必要があるのでは!?

個人の意思決定
事例1
・戦闘訓練中、機長はビンゴ・ライトが点灯したのに気付いた。
・計器の一時的な誤作動と思い、戦闘行動を継続した。
・戦闘行動を終了し、残燃量を確認したところ、燃料が移送されていないことに気付いた。
・その後数分間、燃料を移送させようとスイッチ操作を繰り返した。
・燃料移送系統の故障であることを認識し、異常事態を報告した。
・飛行場到達は無理と判断し、海上へ移動し脱出した。

原因
燃料移送系統の故障が原因。
→人的要因が大きく関わっている
→「警報灯点灯後の対処が適切ではなかった」
→警報灯点灯に対する対処をどうするかという意思決定を誤った


経験のバイアス(願望的思考)
計器の一時的な誤作動と思い、戦闘行動を継続した
→これは以前計器の誤作動を何度か経験したことがある、または誤作動についての話を何度か聞いたことがある
→誤作動を繰り返しているうちに、計器はしばしば誤作動を起こすものであるという認識が発生
→計器の誤作動という不適切な情報を反復学習すると、自分の認識と合っていない情報が提示されたときに、経験的にすぐに思いつく考えを優先させるようになる
不適切な情報が何度も提示されていなければ見られない現象であり、初心者には見られないため「経験のバイアス」ということにします
(注:「経験のバイアス」はわかりやすいと思われるように変えたことばであり、実際は、想起容易性による判断バイアスといいます)


願望的思考
警報灯の点灯時に誤作動と認識
→なぜか本当に誤作動か確認もせず、誤作動かどうか分からないにも関わらず誤作動と判断
人間は、自分の認識と異なった情報が提示された場合、実際の状況に関わらず、こうあって欲しいと望む方に状況を解釈する傾向がある
これを「願望的思考(wishful thinking)」といいます。
燃料が移送されていないことよりも、計器の誤作動であることの方が明らかに望ましい状況なので、この願望的思考が働いた可能性が考えられます


思考の放棄
燃料が移送されていないことに気づいてから、その後数分間燃料系のスイッチ操作を繰り返した
通常、何度か操作すれば、そのスイッチ操作は関係がないということに気づくはずだが、しばらく継続
さらに、操作を行っていたスイッチは燃料計の表示に関わるもので、これを操作しても燃料が移送されることはなかった
→人間には適切かどうかに関係なく、より簡単な対処を行い、他の方法を考えないという「思考の放棄」をおこなう傾向がある
このような簡単に思いついたことだけを行うというのは、適切な対処であれば効率がよいのですが、適切でない場合さらなる手がかりを得る妨げとなることがあります。
(注:「思考の放棄」はわかりやすいと思われるように変えたことばであり、エントラップメント(entrapment)といいます)



正しい情報処理能力+充分な時間、知識=正しい意思決定
正しい意思決定には、正しい情報処理能力と十分な時間、情報量が必要となるのですが、
今回の事例では、警報灯に対する対処が遅れたことから、情報処理能力に欠けていました。さらに、
燃料移送系統に関する知識が欠けていたことから十分な知識がありませんでした。
この事例に関しては、時間は十分ありました。

この事例のように、正しい情報処理能力、十分な時間、知識が欠けていた場合、
人間というのはある特定の傾向で物事をとらえやすくなります。
この特定の傾向の考え方、すなわち考えの偏りをバイアスといいます。
先ほど3つ紹介しましたけれども、実はこのバイアスをいくつか紹介したものです。

その他のバイアス
1.確証バイアス
フランシス・ベーコン(1561〜1626)
イギリスの経験論哲学者です。特に覚える必要はありません。
確証バイアス(confirmation bias)は、自分の考えと合うものはすぐ受け入れますが、合わないものは軽視、無視してしまう、というものです。
つまり、自分の考え似合うものを探し、自分の考えに対する確証を得ようとすることです。

2.後知恵バイアス
予測した当時は不確実だった事柄を、起こってから必然的に起きたように感じたり、あたかも予測していたかのように解釈したり、振る舞ったりすることです。
例を挙げると、テストで、問題を配付されてから、「やっぱりこの問題が出てしまったか」、さらに端から見ると、
「そう思うならなぜやらなかったんだ」と言いたくなるのが、これに当たります。
これがなぜ問題かというと、何か予測したことがあるとします。
当たると、強い印象が残り、ずっと覚えています。しかし、はずれた場合、印象が弱いため、すぐ忘れてしまいます。
その結果、当たったときの記憶だけが残るようになります。
これが何度か起こると、自分の予測に対して、過剰な自信を抱いたり、十分な情報収集をしないで結論を出したりするようになります。


これらのバイアスですけれども、思考過程におけるヒューマン・エラーであり、
ヒューマン・エラーは絶対になくならないと言われているのと同様、バイアスも人間である以上絶対に発生します。
逆にこれがない人は人間ではないというくらいあります。
それじゃあ、先ほどバイアスはなくならないと言いましたので、どうにもならないのかと思われるかもしれません。
が、なくすことは出来ますが、訓練によって減らすことは出来ます。

正しい意思決定をするには?
1.意思決定に関わるバイアスについて知っておく
2.バイアスの排除には正しい知識が必要
3.自分の行動の因果関係について知ること
4.自分がどういう人間であるか知ること

1.意思決定に関わるバイアスについて知っておく
→具体的には、今回のブリーフィングについて復習することです。
利点1
→情報不足の時の注意点が分かるということ
例えば、状況がいまいちよく分からないとき、まあ、何とかなるだろう、という風に考えずに最悪の事態も想定しておこう、というように考えるようになるということです。
利点2
→バイアスにかかっていることに気付くということ
例えば、あ、また計器の故障か・・・と思っているとき、ハッと、そういえばあんなこといっていたなと思い、もう一度見直そうというようなことです。
バイアスというのは、特に何もしなければなかなか気付くことがありませんので、まず知っておくということが重要になります。

2.バイアスを排除するためには、正しい知識が必要
→どういうときにどうすべきか知っておくというということが必要ということです
それに対する対策としては、TOを読んで、航空機そのものに詳しくなる
そして、事故事例の研究により、どういう状況が危険か知ることがあげられます。

TOを読むこと、事故事例の研究
→実行するとなると、大変な努力と興味が必要。さらに一定以上の経験が必要
→多くの状況を想定し、それに対する対処を教育することが必要となってくると思われます。
know whyも含む→単にどうすればいいかという手続きを知っているだけでなく、応用が利くように何故そうするかについても教育するということです。
具体的には、どういう状況のときどうするか、という討論を行なったり、テスト問題として出してみるといったことが考えられます。

3.自分の行動の因果関係について知ること
→自分がどういうときにどういう意思決定を行ったかということについてフィードバックすること
そのためには、何となくとか、言われたとおり操縦するのではなくて、自分がどういう決定をしたか、何故そうするのか意識するようにしてください。
→ブリーフィング等で、行動の良否については分かりますが、操縦者がその時何を考えて行動していたかという、内面のことは分からないからです。
飛行後、自分が行った意思決定の結果を内省。
さらに、自分の行動の因果関係について、どこかに書いておいてください。その時は覚えていても、しばらくたつと結構どうしていたか忘れてしまうので、そういうときのために書き留めておくと便利です。

4.自分がどういう人間であるか知ること
→自分がどういう危険状況に陥りやすいか認識することが出来る。
自分がどういう人間かといわれると、性格について思い浮かべられる人が多いと思いますが、
これについてはなかなか変わりませんので、対策が立てにくいという難点があります。
しかしながら、態度というのは変えることが出来ます。車で一度事故を起こすと安全運転をする様になるというのは、性格が変わったのではなく、運転にする態度が変わったからなのです。ですから、安全に対する態度(安全態度)を知ることが重要であり、それが安全な態度に繋がるということです。
実際には、他の人に、「おまえははじめは慎重だけど1回うまくいったら、調子に乗る傾向があるよ」というように教えてもらったり、
また、態度を測るテストみたいなものもありますので、そういったものを使うということが考えられます。
FAAの意思決定及び態度に関するマニュアルを和訳した本「CRM入門」というのもありますので、参照してもいいと思います。

正しい意思決定をするには?(まとめ)
1.意思決定に関わるバイアスについて知っておく
2.自分の行動の因果関係について知ること
3.バイアスの排除には正しい知識が必要
4.自分がどういう人間であるか知ること
これまで4つの方法を説明してきましたが、それぞれ知ることが必要であるということについて述べてきました。
そうしますと、知っておくだけでいいのか、ということになりますが、もちろん適切な行動ができるようになるのが目的です。
しかし、意思決定というのはいくつかの選択肢の中から行動を選ぶことであると考えると、
知っているということがかなり選択に対する強力な武器となってきます。
例えば、ピッチャーが投げるときですけれども、相手がカーブが苦手という知識があれば、カーブを投げるわけです。
また、前の打席で、ストレートを簡単に打たれたという経験があることによって、ストレートを投げなくなるわけです。
ですから、知っておくということは、選択肢を狭めたり、正解を見つけだしたりするために重要であり、適切な行動への近道になるということです。



集団の意志決定

事例2
個人が集団に属しますと、人間関係やどういう役職であるか、とか、その集団の雰囲気によって意思決定が影響を受けます。
それが場合によっては事故につながることがあります。

→集団の意思決定に関わる事例紹介
・天候悪化のため、代替飛行場へダイバートしている最中であった。
・2番機機長は、1番機は既に燃料が少なく、緊急事態を宣言していたものの、自機の燃料は十分あると見積もっており、特に危機感は感じていなかった。
・2番機機長は、1番機の方が危険状態であることを配慮し、管制機関が錯綜しないようにわざと緊急事態宣言を遅らせた。
・緊急事態宣言の後、飛行場まで到達できないと判断し、市街地を避けて脱出した。

原因として、燃料の見積もりが不適切だったことから、対処が遅れた。
そして、代替飛行場への直行経路を取らず、さらに適切な飛行諸元を取らなかったことから、燃料を過大に消費した。
そして、例えこの対処が遅れていたとしても、緊急事態を認識したときに緊急事態宣言を行っていた場合、管制におけるプライオリティが得られること、指揮所など他からの助言が得られることから、直行経路、適切な飛行諸元を得ることが出来た可能性が高くなります。

このように、過剰配慮が意思決定に影響を与えることがあります。
(「過剰配慮」を表す専門用語はなく、アルビーノ・パラドックスという現象がある)


正しい情報処理能力や十分な時間、情報量を持っていても、個人は集団の中に入ることによって正しい意志決定が阻害されることがあります。
こういったものを過剰配慮の他に二つ紹介したいと思います。
一つは社会的手抜き(social loafing)、もう一つは同調圧力(pressure to conformity)です。


社会的手抜き
社会的手抜き→人々がグループで作業をするとき、一人で作業するときと比べ、努力する量を減らすこと
綱引き
綱引きの人数が増加
→総合的な力は増加
→個人の平均は逆に減少
つまり、グループの人数が増えるほど手抜きの程度が大きくなる
この現象はいつも見られるものではなく、個人の評価がしにくい場合や周囲のやる気がない場合よく見られます。

個人的な評価がしにくい場合
「一人頑張ったところで何もかわらんさ」というように、100あるうち1増えても体勢が変わるわけではないので、程々に頑張ろうと思うことによって発生すること・・・努力の無価値観
「頑張ったところで俺が表彰されるわけでもないしね」というように、個人的に評価されるわけではないと考えることによっても発生する・・・自己の貢献度評価理論
「他のみんなが頑張ってくれるさ」というように、他に責任を分散させてしまう・・・社会的インパクト理論

周囲の人々がやる気があまりない場合
「みんなやる気なさそうだし手を抜こうか」と考える、すなわち、
周囲の人々がやる気がないとそれを見て自分もやる気をなくす・・・他のメンバーとのマッチング理論

この理論を逆に考えますと、周囲のやる気があれば自分もやる気が上がる?ということですが、
実際上がります。これを社会的促進(social facilitation)と言います。

社会的手抜きはわざとやることと無意識のうちにそうなってしまうということがありますが、
それらには関係なく、人数が増えることによって努力の程度が減ってしまうことを社会的手抜きと言います。
実例
副操縦士が「機長はしっかりしているから大丈夫」という風に依存してしまう
教官が「この学生は腕がいいから、これくらいはできるだろう」と油断してしまう
というのがあります。


同調圧力
部下大勢の意見や、スーパー部長が部長よりも上だということを仮定した場合ですが、権力者の意見
に対して同調しなければならないという雰囲気を同調圧力といいます。



集団であることによる意思決定の妨害を振り返ってみますと、過剰配慮は、自分はこうすべきだと思っていても、相手に配慮して出来ない、というもので、同調圧力に関しては、自分はこう思うけれども、上の人はこういうから、思ったことが出来ないというものです。ですから、これらは、〜をしたいけれども出来ないというものです。さらに社会的手抜きに関しては、〜をしてくれているだろう、つまり、コパイが機長に対して、ちゃんとやってくれているだろう、と依存してしまうというのがありました。これらは集団であることから分かるように複数の人間が関係しています。ですから、自分の意図を伝えない限り問題となる状況は解決しません。相手に配慮してやりたいことが出来ないならば、〜をさせてくれといわない限り変化しないわけです。
しかしながら、言わないという現状があります。
ですから、コミュニケーションを取ろうとする意思をおこさせることが対策であると考えられます。


集団における意思決定能力の向上
集団における意思決定能力を向上させる方法として
コミュニケーションを取る気にさせる方法の説明をします。
この方法には二つの観点がありまして、
一つは、こうすると自分がコミュニケーションを取ろうするようになるという点、
もう一つは、周囲のコミュニケーションを阻むものを取り除くようにするという点があります。



上司は自分が脅威になることを自覚し、部下と会うときは、部下を気楽にする、ということ
というのも上司は部下に対し、様々な権限を行使できます。
また、単によく起こるので怖いということもあるかもしれません。
ですから、本人に何をしようという意思がなくても存在そのものが脅威になることを認識する必要があります。
脅威と認識された場合、このように上司の望むこうとしかいわないか、発言そのものを控えるようになります。


自分の状況と相手の状況をお互いに共有しておく
よくある教官と学生の会話を例に挙げますと、
教官が「〜だな」という説明をしまして、学生が「はい」と答えます。
そこで、教官が確認のため、「わかったか?」と聞くと「はい」と答えるわけです。
さらに教官が「じゃあ、説明して見ろ」というと「わかりません」というわけです。
こういった会話は余裕があるときは笑い話ですみますが、
緊急時にはそうもいきません。ですから、まず自分の分からない状況を伝えることが重要になってきます。
たとえよくアドバイスしてくれる人がいたとしてもわからないという状況を知らないわけですから、アドバイスのしようがありません。
ですから、互いの情報を共有することによって、適切な情報を要求、提供できるようになり、
その結果コミュニケーションが促進されると考えられます。


「集団の運命は、率直なコミュニケーションにかかっていることを示す」ということ
大抵の所はそうだと思いますが、組織内で上位を占める人はそうでない人よりも発言が多いです。
この原因としては、上位であるポストがその集団の運命に対する責任感を持たせるためと言われています。
つまり、責任感が発言の量と関係しているということです。
任務付与や分担を明確化にすることにより、任務に対する責任感を感じるようになりますから、
それに応えることによって何か言わないといけないという意見することに対する責任感を感じることによってコミュニケーションが増加するということになります。


3つ対策を説明してきました。
コミュニケーションをとる気になることが重要であるといいましたけど、コミュニケーションを取るというのは、
少しだけ話しましたけれども、言う気が周囲の妨害より上回ったときに起こるわけです。つまり、言う気が高まったときと、
周囲の妨害が低くなったときです。
ですから、せっかく話しやすい雰囲気を作っているのに話さないということもありますし、言う気満々の人でも、周囲からのプレッシャーが大きすぎて、言えなくなると言うこともあるわけです。
対策では、典型的な所だけ挙げましたけれども、実際は言うべき時には言うという努力と話しやすい環境を作る努力の両方が不可欠であるということを認識しておいてください。



        
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